【弁護士でプロ雀士が教える】賭け麻雀はいくらからダメなのか

テンピンとは

東京高検の検事長を務めていた黒川弘務氏が新聞記者たちと賭け麻雀をしていたというニュースが世間をおおいに騒がせました。

黒川氏が起訴されて法的責任を負わされる気配はなく、その点を批判する報道も多いです。

私は弁護士です。賭博罪に関する事件や相談を、これまでに多数取り扱ってきました。

今回の事件について、専門家としての見解を話します。

 

黒川氏の賭け麻雀は俗に「テンピン」あるいは「ピン」といわれるレートでした。1000点を100円で計算するレートです。8000点のマンガンをアガれば800円になります。1日で動く金額は数千円から2万円程度であると報道されていました。だいたいそんなものでしょう。

「賭け麻雀は幾らから違法になるの?」

こういう質問をよく受けます。これに形式的に答えると

「1円でも賭けたら違法になる。」

となります。

日本の刑法には賭博罪があり、賭博罪の解釈について最高裁判所は、金銭は少額であっても賭ければ賭博罪が成立する、と判示しています。

賭けても捕まらないことも

では、麻雀でお金を賭けたらどんな場合でも全てが捕まって処罰されてしまうのでしょうか。

実はそうではありません。ここに賭博罪の特殊性があります。

黒川氏の件に限らず、警察や検察は把握している全ての賭け麻雀を処罰しようとはしていません。いやむしろ誤解を恐れずに言えば、一般の人が普通にやっている程度の賭け麻雀は通常逮捕して処罰されることはまれです。

 

本や国会答弁では

こういう扱いがされているのは、今に始まったことではありません。

今から50年近く前、昭和47年に出版された「賭博事犯の捜査実務」という本があります。これは、現役の検察官である著者が検察官向けに捜査のやり方を指南している本です。著者は賭け麻雀についてこう記しています。

「麻雀賭博は、いわゆる素人である一般サラリーマン、学生、さらに最近は主婦などの間にも広まっている。あまりにも些細、軽微な事案まで検挙しようと試みることは、市民から無用の反発を買う結果となる。」

些細な賭け麻雀を検挙すると国民からの反感を買うのでダメだ、とはっきり書かれています。

また平成5年3月24日の参議院予算委員会で、当時の法務大臣である後藤田正晴は、賭け麻雀はどの程度まで許されるのかという野党議員からの質問に対して、社交儀礼の範囲内であれば賭博にはならないのではないかと答弁しています。

ここでいう些細な賭け麻雀とか社交儀礼の範囲内とかいうのは、一般市民が一般的におこなっている程度、と考えていいでしょう。その程度の賭け麻雀は、今までにおいても処罰された例は非常に少ないです。

暴力団が絡むとダメ

では「通常」の範囲を超えて処罰される賭け麻雀とはどんなものでしょう。

まず典型的なものは、反社会的勢力が絡む賭け麻雀です。この原稿を書いている最中にも、北海道で暴力団幹部たちが賭け麻雀をした疑いで逮捕されたという報道がありました。

賭博罪は、歴史的には反社会的勢力を摘発するために設けられた犯罪類型です。今も昔も、非合法な賭博場が反社会的勢力の資金源になっているケースが多くあるからです。

そのため暴力団等が絡んでいる賭け麻雀は、レートの大小に関わりなく警察は積極的に検挙してきます。

自分自身が暴力団ではなくてもそれが絡む賭け麻雀に関与すると、処罰される危険性は極めて高くなります。

動画配信もダメ

次に重要な要素は「公然性」です。

賭博罪は風紀に対する罪なので、こっそりやることと、公然とおおっぴらにやることでは違法性に大きな差があります。

そもそも賭博罪は、刑法草案の段階では「公然とする賭博」のみが処罰される規定であり、非公然の賭博(こっそりとされる賭博)は処罰の対象になりませんでした。

諸外国では、公然とする賭博のみを処罰する国もあります。

賭博やわいせつ等の風紀に対する罪に関しては、公然とその行為がされることで風紀が乱れるという考えが根底にあります。

わいせつな行為は、密室でする分には互いの同意があれば法律的には全く問題ないですが、それを公道等でおおっぴらにすると公然わいせつ罪に該当します。

賭け麻雀も同じです。たとえば賭け麻雀している様子を動画配信する、などをしたら公然性が高くなり処罰される危険性がおおいにあります。麻雀店が、うちの店は賭け麻雀をやっています、と広告宣伝することも相当に問題ありです。

 

違法性が低すぎる黒川氏

以上を踏まえたとき、黒川氏の賭け麻雀は、暴力団等の反社会的勢力は一切絡んでいません。また黒川氏らはマンションの部屋で身内で麻雀していたというのであり、公然性も皆無です。

とすればこの程度の賭け麻雀は、形式的には違法ではありますが、その違法性が低すぎて処罰する程度ではないと考えらえます。ポイントは「反社会的勢力が絡んでいない」という点と「身内でこっそりとされており公然性がない(非公然である)」という点です。

世間では、黒川氏だから忖度された、などと批判がされています。しかし私に言わせると、今回のような賭け麻雀について警察や検察が“お目こぼし”するのは今に始まったことではなく、特別なことではありません。

50年前に検察官が書いた本にも、賭け麻雀など皆やっているのだから些細なものは処罰したら駄目だとはっきり書かれているのですから。

ただ今回の件で注目すべきことがあるとすれば、具体的な「ピン」というレートについて立場ある人からの公式なコメントが出たことです。

5月22日の衆議院の法務委員会で、法務省の刑事局長が黒川氏のやっていた「ピン」の麻雀について「もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない」とコメントしました。

「些細な賭け麻雀」や「社交儀礼の範囲内」という曖昧な表現ではなく「ピン」という具体的なレートの扱いに公式のコメントが出たことは今後に影響のある大きな前例であると考えます。

テンピンは世間の東大生もやる

実際、ピン程度の賭け麻雀は社会ではかなり一般的にされているように思われます。

黒川氏は東大卒で、学生の頃から麻雀狂いだったと報道がありました。おそらく学生時代から賭け麻雀をやっていたのではないでしょうか。私の友人である東大卒の人たちに東大生の麻雀事情を聞いてみました。

まず、この原稿の担当編集者のK氏。K氏は東大法学部卒、私とK氏は10年近く前に2人で組んで「賭け麻雀合法化委員会」という連載を近代麻雀で始めたのですが、時代を先取りし過ぎたようですぐに終了してしまいました。

もうひとりは麻雀ライターのF氏。F氏は東大教育学部卒、私が駆け出しの弁護士だった10年前に本の執筆に協力してもらったので私は恩を感じています。ある意味で賭け麻雀について日本一詳しい人なのではと思います。

K氏もF氏も、東大生だった時代から「テンゴ(※ピンの半分のレート)」や「ピン」の賭け麻雀をたくさんやっていたと答えました。麻雀はひとりではすることができないので、当然周囲の学生もやっていたということです。

将来があり固いイメージのある東大生ですらしている程度の賭け麻雀は、やはり「些細な賭け麻雀」「社交儀礼の範囲」と言え、処罰の必要性が低いのではと考えられます。

早とちりしてはいけない

刑事局長のコメントが出たことで、世間では「黒川基準」などといいピンの麻雀は合法になったと言っている人もいます。

しかしこういう早とちりは非常に危険です。賭博罪の違法性の高さは、総合的な事情で決まります。

たとえピンの麻雀であったとしても、そこに暴力団が絡んでいたり、公然とおおっぴらにやってしまったら、処罰の対象になるでしょう。

動画で賭け麻雀を配信したり、賭け麻雀を広告宣伝する行為は非常に危険であり、世間の風紀を乱すことにもなるので、してはならない行為です。既出のコメントが出たところで、ピンの賭け麻雀が合法になったわけでないのです。ピンの賭け麻雀は明白に違法です。

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