「ゲイ専門の出会い系アプリで麻雀友達を探しました」ゲイ雀士・今井伸吾プロができるまで

最高位戦日本プロ麻雀協会に所属の、今井伸吾プロの人気が急上昇している。彼は自分がLGBT(※)のゲイ(同性愛者の男性)であることを公表し、雀荘や麻雀配信のいわば「女流プロ枠」にもゲストによばれている。なぜ、今、ゲイ雀士がウケるのか、今井プロのお話を伺った。(文・赤松薫)

※レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、両性愛(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)の性的少数(セクシュアルマイノリティ)の人たちの総称。

フリー雀荘や大会のゲストで大忙し

今井伸吾プロは44歳。今、最もゲスト活動が忙しい麻雀プロの一人だ。

今井伸吾プロ写真
「武蔵小山の麻雀バーRには毎週木曜日に入っています。その他、スプラッシュ(田町)、新時代(浅草橋)、かめきたざわ(渋谷・下北沢)、まーすたなど、定期的に入る店があり、その他に単発で雀荘ゲストに呼ばれます。最近は麻雀プロの動画配信にもよく声がかかります」

これらはいずれもいわゆる<女流枠>で、雀荘も女流プロを入れる代わりに今井プロに声をかけているようだ。

「自分としては、かなり気遣いができるほうだと思っています。気軽にお話しやすいキャラクターですし、それがウケているのかなと思います。38歳で麻雀プロになるまで、いろんな仕事をしてきましたから、まだ若くて世間のことを何も知らないまま麻雀プロになった人たちよりは、接客もできるはずです」

ニコニコと話す今井プロは、とてもさわやかで、44歳という実年齢よりもかなり若く見える。

「サラリーマン時代は、休みたいと思ってましたけど麻雀プロ一本でやっていくと決めてからは、お仕事を休みたいと思ったことがありません。毎日とても楽しいんですよ」

やっと自分の居場所を見つけた、という今井プロ。彼はこれまでどんな人生を歩んできたのだろうか?

ゲイに目覚めたのは学生時代

自分がゲイだということを意識したのは20歳くらいの時。高校時代は普通に女性の恋人がいて、初体験の相手も女性だった。
大学進学のために静岡県から東京に出てきたころから、男性の肉体に興味を持つようになった。

「初めは、テレビのスポーツ番組を見て、水泳やプロレスの選手の肉体をきれいだなあ、と思いました。
『もっと男性のきれいな体を見たい』『他の人はこんな感情はないんだろうか?』
ということを感じて、古本屋に行きました。男性の肉体の写真が豊富に載っているゲイ雑誌を見ているうちに会いたくなり、誰かと話したくなって翌日にはゲイが集まるという新宿2丁目に行ってしまいました(笑)。昼間は普通の町なんですけど、そこにいる人と話をしたのが、自分にとってゲイの始まりでした」

今井プロは「恋愛対象が男性」というだけで、女性になりたいわけではない。

「ゲイの中には、『女性になりたい』という気持ちの強い人もいて、手術して体を変えたりする人もいますが、僕はこのままの肉体で、ただ、男性と恋愛やセックスがしたいんです。セックスは、男性とするほうが絶対に気持ちいいと思いますよ。結婚するならもちろん男性としたいです」

エリートサラリーマン、人生のはざまで麻雀に出会う

今井プロの、麻雀との出会いは遅く、30代になってからだ。
中央大学法学部を卒業後、文部科学省の外郭団体に就職して12年働いた。ゲイであることは隠していた。

「34歳で一度退職して、実家でのんびりしているときに、なんとなく見ていたmixiで、地元の麻雀サークルを知りました。興味がわいたので行ってみて、そこでリアル麻雀デビューをしました。そこでもう、はまってしまいましたね。週1回の活動に、半年間、毎週熱心に通ってますます夢中になりました」

その後、三井物産の関連会社に再就職して東京へ。忙しい日々の合間に池袋のノーレートフリーで麻雀を打っていた。

「そこで初音舞プロに出会って、プロになることをすすめられ、RMUに入会しました。初音プロにゲイであることを打ち明け、『カミングアウトしたほうがいいよ』と助言をもらって、面接でも言いました。面接官の阿部孝則プロは、『全然いいよ』とさらっと受け入れてくれました」

こうして、ゲイ雀士・今井伸吾が誕生した。

ゲイの麻雀サークルを立ち上げて運営

今井さんは、プロになる前からゲイ専門の麻雀サークルを運営している。

「池袋の雀荘で麻雀をしながら、やっと1300・2600がスムーズに言えるようになったころ、ゲイの麻雀サークルを立ち上げることにしました。
ゲイの活動として一般に周知されているものとしてはゲイバーやダンスくらいしかないんですが、じつはテニスやバレーボールなど、ゲイだけでが集まって活動しているグループがかなりあります。自分も何かやりたいと思い、麻雀サークルを作ることにしました。ゲイ専門の出会い系アプリで、普通なら自分の好みだとか、どういうお付き合いがしたいかなどを書き込むところに、『麻雀したい人、メッセージください』と書いて呼び掛けると、すぐに反響がありました。今でも20~40代中心に、定期的に集まって麻雀をし、ゲストをよんだ大会も開いています」

恋愛対象として趣味が合うものどうしが複数集まっているのだから、そこにはいろんな感情が起こるのではないだろうか? 恋愛トラブルとかは?

「基本的には、『麻雀を打つサークル』という目的がはっきりしているのですが、時にはサークル内でトラブルが起こることもあります。合宿の時は、夜になると何となくみんなそわそわしはじめて、麻雀に集中できなかったりしますね。『一緒にいたいと思っていたのに別の人といた』とか『ふたりっきりになったところを誰かに見られた』とか、もめることもあります」

まるでティーンエイジャーの修学旅行や部活の合宿のにありそうなシチュエーションでほほえましいが……

「傷つく人はすごく傷ついてしまうので、サークルの代表である自分自身はサークル内での恋愛はやめよう、と思っています」

ちなみに合宿はやめないらしい。

RMU新人王になって国家公務員を退職

2019年にRMUの新人王になった時、今井さんは三井物産からさらに転職して内閣官房で国家公務員として働いていた。麻雀プロとしての知名度が上がり、ここで今井さんは人生の岐路に。

「国家公務員は兼業禁止なので、麻雀プロとしての活動が増えると両立は難しくなります。即金の仕事だけを受けて内緒で続けていくこともできますが、それはあまりよくないと思いました。
麻雀がしたいのでどうしても麻雀中心の生活になり、有休も取りたいですんですが、忙しくて残業などが続くと体力的にも不安で、何より、モチベーションが切れるのが嫌でした。そして、どちらかをやめるなら、もう年も年なので、やりたいことをやろうと思い、国家公務員をやめて麻雀プロを続けようと決心しました。
麻雀プロ一本にすると、周囲にそれほど迷惑をかけずにスケジュールを組んで実家に帰ることもできるので、実家の両親も『休みが多くて帰ってこられる方がいい』と賛成してくれました。両親には自分がゲイだということは言っていませんが、『好きなように生きていい』と言ってくれるので、もしかしたら勘づいているかもしれません」

2020年の3月に国家公務員をやめて麻雀プロ一本にしたとたんに、世界的な新型コロナの拡大で、社会全体がずいぶん変わってしまった。

「昨年春の緊急事態宣言の時は、決まっていた仕事が32本なくなってどうしようかと思いました。でも、その後雀荘は営業停止しないでやってますし、ゲストの仕事だけで生活していくだけの稼ぎはあります。貯金は増えていますよ。仕事がたくさんあるので、お金を使う暇がないんです」

今後は、全国のいろいろな雀荘に行って、47都道府県制覇すること。まだ東京周辺と大阪くらいしか行っていないので、北海道や四国、九州にもゲストに行きたい、とのことだ。

「ほんとうに女流枠で呼んでくれるなら、『夕刊フジ杯』とかにも出たいですけどね」

思わぬ誹謗中傷も

女流プロと一緒にゲストに入ったり、配信に出たりしていると、「女流プロと仲良くしたいからわざとそういうキャラクターを作ってるんだろう」という誹謗中傷を受けることもあるという。

「本当に自分は女性に興味がないので、『いいえ、僕はガチでゲイです』と返信します。女流プロに冗談で『おっぱいを触ってもいいよ』と言われたら『そうですか』と淡々とおっぱいを触らせてもらいます。たぶん麻雀プロの中で一番女流プロのおっぱいを触っているのは僕だと思うけど、何の感情もわかないですね。お風呂に一緒に入れと言われても平気です。むしろ、男性プロとお風呂に入れと言われたら、恥ずかしくて無理ですね。反応しちゃいそうで。好みのタイプは、滝沢和典プロが神的存在で大好きなんですけど、かわいいタイプが好きです!」

今井プロは昨年末にRMUを退会して、年明けに最高位戦に移籍。

「RMU新人王という実績があるのでD2リーグからで、今後はリーグ戦でも成績を残していきたいです。特に麻雀が強くなくても、ゲストであっちこっち行って生活できる男性プロがいてもいいと思いますが、それでも実績は残したいです。僕よりもイケメンのゲイ雀士が出てくるまでは、この立ち位置で頑張れるかなと思っています。
年を取って、もう人気もなくなってしまったら、親と暮らすかもしれません。最高位戦は東海支部があるので、実家に戻っても麻雀プロを続けていけるので、東京を離れても麻雀はやめないで、ゲイバーや雀荘をやるのもいいかなと思っています。
近い将来の目標としては、何か一つ、新しい分野を開拓したいと思っています。ユーチューバー、Vチューバー、麻雀バー、そんな感じで、麻雀と何かを合わせたものを始められたらいいと思っていますそのために、どんどん人脈も広げたいです」

エリート公務員の立場を捨て、ゲイ雀士という新しい形の開拓者になった今井伸吾プロの今後の活躍に、ますます期待したい。

 

この記事の全文は近代麻雀6月1日発売号ドキュメントМで読むことができます。

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