試合巧者たちの共演
河野高志
2万点放銃・親番無し
からの逆転劇
【B卓】担当記者:藤原哲史 2022年6月25日(土)
麻雀最強戦2022タイトルホルダー頂上決戦、予選B卓。現役タイトルホルダーのうち、マスターズ、王位、發王位、令昭位の4名が集結した。
奈良圭純(マスターズ)
マスターズ20期・30期、第20回BIG1カップと数々のビッグタイトルを制している実力派連盟プロ。「G1タイトルを3回獲得している麻雀プロでこんなに認知されていないのは私くらいですね」と微笑むが、麻雀で見返しますよ、と力強い一言を残した。
渡辺史哉(王位)
プロ2年目にしてビッグタイトル「王位」を獲得した新進気鋭の連盟プロ。若手プロらしいストレートな手組みを武器とするも、時折、山読みを駆使した老練な打ち筋を見せる。
仲林圭(發王位)
第10期雀竜位、第7回オータムチャレンジカップ、第29期發王位を獲得しており、そのルックスと人柄から、いまMリーガーに最も近い協会プロのひとりとも言われている。自分の麻雀に自信を持って疑わないその不遜な態度も、嫌味がなく逆に清々しい。
河野高志(令昭位)
RMU河野高志は、他の3人とは競技麻雀の経験も、獲得してきたタイトルの数も頭ひとつ飛び出している。令昭位戦をディフェンディング無しで2連覇しており、麻雀における全てにおいて一日の長がある。
奈良「事前アンケートは僕が8番人気(最下位)だと思います」
開始前のインタビューで、自虐とも諦観ともつかない表情の奈良圭純は静かに笑った。
「でも、僕の麻雀を見て面白いって言って貰えるのはすごく嬉しいので、そういうプロになりたいと思っています」
決して、認知度が低いことに甘んじている訳ではない。柔和な表情の奥には、奈良にしかない確固たる意志を携えていた。
その「面白い麻雀」を試されるかのように、東2局、奈良に難しい手が入る。
何を切る。とにかく抜け出したい親番で、どこかの形を決めなくてはならない。
奈良は、ふわっとを切った。場に高いソーズを見切り、縦と567三色の高打点ルートを残したのだ。
これがハマり、仲林の満貫リーチと渡辺のホンイツを上手く掻い潜って1000オール。打点こそ低いものの、8000点×2を潰した意義は極めて大きい。
凡庸に進めていれば仲林のリーチにが打てずにベタオリする展開もあっただけに、奈良は宣言通り面白い麻雀を見せたのである。
「大学を中退して、麻雀に専念することに決めました」
若者らしい真っ直ぐな目で、渡辺史哉は語った。
朝から晩までひたすら麻雀をして、講義の時間は寝て過ごす。いつしか大学をドロップアウトするその道を通った麻雀プロは、決して少なくない。渡辺が他のプロと違うところは、プロ2年目にしてビッグタイトルの王位を獲得し、その実力をきちんと世に知らしめたことだ。ここで最強戦ファイナル進出を決めれば、一躍スターの可能性も十分に秘めている。
しかし大事なこの半荘は、とにかく手が入らなかった。随所に光る手筋を魅せながらも、ベタオリ以外に殆ど出番が無かったのである。
2軒リーチに対してアタリ牌のをつかんだ渡辺は、満貫テンパイからを抜き、その後のはポンして丁寧にテンパイを取る。
基礎雀力の高さを感じただけに、全体を通して勝負手が入らなかったことだけが残念でならない。
逆に、勝負手は毎局入ったのにほぼ全てめくりあいで負けたのは、仲林圭である。
今回の事前アンケートでも文句無しの1位を獲得したのだが、アガれたリーチは南1局の1300・2600のみであり、その他に4回テンパイした勝負手は陽の目を見ることなく卓内へ吸い込まれていった。
それでも仲林は、怯むことなく攻め続けた。1半荘勝負は「ギアを上げてギリギリまで押し切ることが大切」であると、数々のタイトル戦決勝で熟知しているからだ。
だから仲林は、マンズが溢れている下家のホンイツ仕掛けに対して、イーシャンテンから15巡目にを切り飛ばした。
1半荘勝負において1回の親番の価値は高く、また場に出ている字牌やマンズの情報(他家のマンズでポンしたのはだけ、更に仲林のを仕掛けていない)から、下家の渡辺はノーテンだって全然有り得る。確かに「理」はそうなのだが、タイトル戦で既に一段上げているギアが、仲林のプッシュを加速させる。
受けつつもギリギリまで形を保った河野からが放たれ、それをポンした仲林が値千金の500オール。あそこで仲林がを押せなければ、この未来にはなっていない。出来ることを全てやり切れるのが、仲林の強みだ。
2位までが勝ち抜けのルールである。ここまで、トップ目奈良36000点、2着目河野が26900点であり、このまま局が進めば2人でゲームを作っていくことも考えられた。
しかし東4局に事件は起きた。奈良が丁寧に育てたタンヤオ・ピンフ・イーペーコー・ドラに、河野が飛び込んでしまったのである。
河野の悲劇はこれだけで終わらなかった。最後の親番を仲林の1300・2600で流されたあと、南2局では更に奈良へ12000を打ち上げてしまい、4300点のラス目に落ちてしまった。
奈良が受けつつホンイツへ向かっていたことは河野も分かっていた。完成した瞬間にをつかんでしまったのは、不運としか言いようが無い。
しかし河野は不遇を怨むこともなく、深くお辞儀をしながら「はい」と返事をして、起きた出来事を真正面から受け止めた。
2着目まで残り3局で17100点差、親番は無い。けれど、河野の目は落ち着き払っていた。そうだ、河野はまくってきたタイトル戦の数が違うのだ。
「河野さんは連盟の十段位を3連覇していますが、3連覇目は終盤までリードしていた私にトップラス2回を決めて優勝していますからね」現最強位の瀬戸熊プロが語る。