負けてなお胸を張れ
〜土田浩翔と阿久津翔太が
示すプロの矜持
【B卓】担当記者:千嶋辰治 2025年8月16日(土)
私は師匠の土田浩翔に出会って29年になるが、27年前に土田が最強位を獲得した時のことを今でもはっきりと覚えている。
今ではMリーグなどでニコニコと麻雀を語る土田だが、若き日の姿… 特に打ち手として戦う土田は時に顔を真っ赤にするほど闘志に満ちていて、師事する私でも近寄りがたい日があったほど…おそらく若い方には想像できない姿かもしれない。
土田が全てを捨てる覚悟で手を伸ばした最強位のタイトル。
傷だらけになりながらタイトルに食らいついた師匠の姿に、私は最強位というタイトルがどれほどの魅力に満ちていて、さらにはどれほどの「魔力」を纏ったものなのかを知った。
ファンの方へのコメントを求めた際、土田はこう語った。
ファンの皆さんへ
期待を裏切り続けて二十余年。
もう期待感も無くなっているでしょうが、皆さんの心の応援がツモ力になります。
わがままを承知の上でよろしくお願いします。
「わがまま」とあるのは対局後のインタビューでも語っていたとおり。
ファイナルへ中々勝ち上がれないのにチャレンジを続けるのは、後進のチャンスを妨げている… その思いはありながら、土田は最強位を夢見続けているのだ。
打ち手としてタイトル戦に登場する機会はめっきり減っても、麻雀最強戦だけは…。
最強位の「魔力」に魅入られた土田が、再びコロシアムに姿を表した。
東家:内川幸太郎(日本プロ麻雀連盟)
南家:阿久津翔太(日本プロ麻雀連盟)
南家:土田浩翔(最高位戦日本プロ麻雀協会)
北家:中出雄介(麻将連合)
自身が解説を務めるMリーグにて内川の打ち筋やイメージはあっても、阿久津と中出についてはデータに乏しいのではないか?
私の問いに土田はこのように答えた。
「リーグ戦ではなく一発勝負なので、対戦相手を研究すると裏目に出る可能性があります。当日の運の巡りに力点をおいて打ちたいなと思います。」
迎えた東1局、ドラは。

1打目に字牌を切らない土田。
チャンタや国士無双に向かうに当たって1枚だけそれに不要なが浮いており、土田は力みなくそれに手をかけた。
一般的にはあまり良い配牌には写らないかもしれない。
しかし、土田はおそらくそんなに悪い印象を持たなかったはずだ。
この手の焦点はドラのペンが引けるかどうか。
「運の巡り」を測る土田は、そこに物差しを当てた。

中盤を過ぎた頃、土田の手にそのがやってきた。
しかし。

土田の表情は冴えない。
なぜなら、

阿久津が、
と仕掛けを入れている。
三元牌が場に高いこと、さらに阿久津の河が単なる一色手に見えないことから大三元の可能性が色濃くなっていた。
まっすぐ行くならか
を叩き切ってのイーシャンテンに取るのが手広いが、

土田は阿久津の仕掛けをケアして打とした。
そして、次巡。

持ってきたに嫌な予感を得た土田は、間を置かずに
のトイツ落としへ。

ツモ切りを続ける阿久津の手には確かにの受けは残っているのだがイーシャンテン。
しかし、、
と場にション牌を並べるには間に合わないと判断して早めの撤退に向かった。
が。
土田が向かった道の先は地獄だった。

土田と同様にと
をケアして回っていた中出がこの
に飛びついた。
狙いは789の三色あたり。
字牌の処理に難儀することは変わっていないが、自身にドラが暗刻になっていて、黙って手をこまねいているわけにはいかない、というところか?
だから、まさか本人もアガリがあるとまでは確信していなかっただろうが… この動きが世界を一変させる。