百恵ちゃんも絶賛!
進路の第一希望「ニート」を
覆した思い出の給食(あじ)
女流プロ雀士
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.17
給食
中学校三年生の冬休みが明けた頃だったと思う。
その頃クラスは受験間近でピリピリしていていつもは学校に行けば遊んでくれていたお友達からもアホな百恵ちゃんは片手間にしかかまってもらえず、全くつまらなかったのでほとんど学校には行かなくなっていた。
進路希望にも第一希望から第三希望まで「ニート」と書いて提出していたし高校に行く気はさらさらなかった。当時から非常に賢かった百恵ちゃんは中学もまともに行けない人間が高校に通えるはずがないことはわかっていたのだ。
学校は毎回無断欠席だったが担任の先生もその頃には慣れてきていてたまに思い出した頃に電話してくるくらいの間柄になっていた。
だがある日いつも通り昼過ぎに起きると携帯に何度も着信が入っていた。
どうせまたなんか怒られるんだろうなぁ嫌だなぁと思ったが、あまりに着信がうるさいので観念して電話に出ることにした。内容は今日中に学校に来いとのことだった。
なぜか百恵ちゃんは没収されていた香水を返してもらえるんだと確信して意気揚々と学校に向かったのだが香水は返してもらえず、かわりに差し出されたのは入学願書の紙だった。
「定時制高校に行ってみないか」
と。
定時制に通っている先輩から定時制には給食があることを聞いたことを思い出した。
百恵ちゃんにとって給食はかなり魅力的だった。生まれたての頃から食い意地が強く、不登校になりながらも給食の時間になると突然現れて食べ終わるとそそくさと帰るという奇行に走る程、給食を愛していた。
そしてマイちゃんもその高校を受けることもあり、渋々ではあるが百恵ちゃんも受験することとなった。
受験前日高校に近いマイちゃんの家に泊まり、次の日に一緒に行こうということになった。
もちろん我々が前日だから早めに寝る、なんてことはなく散々遊び散らかし、結局寝たのは明け方だった。
目が覚めると10時を過ぎており、集合時間はとっくに過ぎていた。お互いの先生からのたくさんの着信を見て
「もうダメならもう一回寝たいよね」
と話し合いはじめていたが電話に出ると
「待ってもらってるから早く行きなさい」
っと怒鳴られた。低血圧の百恵ちゃんは朝から大きい声を出されたことにキレそうになったがマイちゃんのお母さんが学校まで送ってくれるとのことだったのでとりあえず学校に向かうことにした。
当時マイちゃんの家には猫が26匹生息していて適当に放り投げていた紺色のセーラー服が猫の毛で白くなっていたが時間がなかったので毛だらけのまま着て行った。
突然会場に毛だらけの二人組が行ってびっくりされるかと思ったがジーパンやジャージ、鼻ピアスや金髪等、みんな思い思いの格好だったので我々が浮くということはなかった。受験生の集まる会場というよりはロックバンドのオーディション会場のような雰囲気だったがそのおかげで我々毛だらけユニットも潜り込むことに成功した。
そんな受験生たちだったがたくさん落ちるのかと思いきや、全員合格だった。よく
「名前さえ書ければ受かる」
というフレーズを聞くがあの高校に限っては遅刻しても行きさえすれば受かるし、給食もあるという素晴らしい学校だった。
給食目当てで入った百恵ちゃんだったが、目論見は間違っていなかった。給食は給食センターのようなものではなく給食室の中で作った出来立てのものが食べられる仕様になっていた。しかも調理員さんは田舎であるにも関わらず、フードコーディネーターや野菜ソムリエの資格を持っていた。
定時制では給食を食べなかったり学校を欠席する人が多かったので百恵ちゃんは毎食牛乳三本に全メニューを大盛りにしていてもらっていた。
調理員さんも百恵ちゃんがたくさん食べるのが嬉しかったのか給食をたくさん与え続けてくれ、気付くと百恵ちゃんの体重は60キロになっていた。
ショックを受け、それからしばらく百恵ちゃんは不登校になった。
次回は2月14日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!