結果、黒沢の親リーチを躱すことに成功する。1300点だが収入以上に価値ある上がりだ。
【南4局】
平たい状況で迎えたオーラス。ラス親の多井は大きな手をアガって突き抜けたいが、ラスも非常に近いため、難しい場面だ。
ドラ3だが愚形残りの不安定な手。ここは打。
4巡でこの形。ここは……
打。七対子ドラドラ赤赤の目を残しつつ、面子手になればドラを打つ。一番手広く構えた。
しかしこの手がなかなかテンパらない。
13巡目でようやくメンツ手と七対子どちらも狙えるイーシャンテンに。形式テンパイの為にも嬉しい引きだが……
先にテンパイしたのは石橋。タンヤオのみの1300。
これをすぐに掴んだのは多井。
掴んだ、と表現したが、実際にはこれを打っても多井は3着に残る(黒沢との点差が1700のため)。黒沢と多井の点差がテンパイノーテンで変わる以上、下手なノーテン終了よりも打った方が多井にとって嬉しいかもしれない、そんな牌なのだ。しかしそんなことを多井は当然知る由もない。
卓内の多井にできることは、自分が見えている範囲で最善を尽くすこと。そしてその最善は……
切りだ。は唯一見えていないの跨ぎ。打った時に2000と言われてはラス落ちだ。
もこの巡目の生牌で相当危険な牌だが、他の手役が絡みにくいため、赤とドラが6枚見えているこの状況では1300で済む場合も多い。
多井の目からは黒沢のノーテンも見えていただろう。止めはチー材絞りの意図もあったはずだ。
まさに苦渋の選択で3着を守り切った多井。
麻雀における守備はどうしても評価が難しいところがあるが、それでも誰もが多井の守備力を誉め称えるだろう。
そういう意味で、やはり多井は守備型のエースなのだ。
一方で今回の試合のように、守備的な多井でもこれはリーチ、これは勝負、ここは完全イーシャンテンでブクブクに構えるなど、攻撃的な選択を取る場面も多々ある。守備的な打ち手が取る攻撃的な選択は必ずそうした方がいい理由がある。そこには常に麻雀を強くする要素が詰まっているのだ。
他にも黒沢選手が鳴く局面・小林選手が鳴かない局面・寿人選手がリーチしない局面などなど、「じゃないほう」の選択の理由を考えながら見れば、これからのMリーグをさらに楽しく見られるだろう。