“多井隆晴の親は流せ!”
リスクを負ってでも
敷く価値がある
最速最強への包囲網
文・山﨑和也【月曜担当ライター】2020年11月2日
11月に入った。Mリーグも約一月が経ち、好調なチーム、好調な選手が徐々にわかってきた感を受ける。ここまではドリブンズ、EX風林火山の頑張りが目立つだろうか。ドリブンズはエース村上淳が無双状態に入っており、EX風林火山も滝沢和典、二階堂亜樹の従来のスタイルから変えた打ち回しで好調を維持している。
さて、個人的には何か物足りないと思っている。あの男がまだ大暴れしていないのだ。
多井隆晴である。『最速最強』、『過去2シーズン個人成績通算1位』、『麻雀星人が地球に侵略してきた時に迎え撃つ人類代表最有力候補』のあの多井である。最後は筆者の想像だが。
10月23日の1回戦ではラスに沈み、前回の登板も園田賢に競り負けて2着に終わった。まだ焦る時間ではないものの、少し寂しくもある。昨シーズン終盤で相手の当たり牌を手の左側に寄せるビタ止めアピールをして、筆者のハートを奪ったことは忘れていないぞ。
2戦目の顔触れはこちら。1戦目でトップを獲得した滝沢に加え、実力者の朝倉、堀が参戦。何ともハイレベルな卓が出来上がった。
2戦目
南家 朝倉康心(U-NEXTパイレーツ)
北家 堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
東1局。
親の多井の手はこちら。面子はないものの、手なりで進めてよさそうな手格好だ。
そこに、まだ3巡目ながら朝倉が自風のをポン。
1000点の手でまっすぐアガりに向かう。この1000点はただの1000点ではない。「多井隆晴の親を流す1000点」なのである。
しかし多井もそんな仕掛けはまったく気にしていなかっただろう。しばらく巡目が進んで自身の手はイーシャンテン。をツモったところだ。かの対子落としが有力である。
こういうときは外側から切るのがセオリー。この場合だとが壁になって当たりにくくなる。
しかしご存知は朝倉の当たり牌。朝倉は多井の親を軽く流してホッと一息だ。
(ちぇっ、面白くないな)
そんな思いがにじみ出ているかのような多井の表情。今回は手格好上、筆者でも同じように進めているほど自然なかわしだったが、多井の親を止めるというマークがされているかもしれないと思ったのは過剰反応だろうか。
東2局。
多井は配牌で1面子できているがそこまで手がいいわけではない。
ここから目一杯に手を広げて打点も見込めるようになった。ふっと息を吐いて打とする。今度こそ獣の呼吸、猪突猛進でアガりに向かえるか。
堀から出たをカンチャンでチー。ネックが埋まって十分形に。上家の堀の捨て牌が濃く不気味でもあるので、じっくりと手を整えようとしていては間に合わなそうだった。
しかし先にリーチが入ったのは滝沢。打から待ちで機先を制す。
多井はまだテンパっていない。これは嫌なタイミングでリーチを打たれてしまった。
上図、ひとまず中筋のを手出しでひょいと切る。
さらっとテンパイ。ここも手の内から直前に通った現物のを切って目立たなくさせる。表向きは(勘弁してくだせえ滝沢さん)といった様子でも、当然目の奥はギラリと光っている。
このめくり合い勝負は滝沢が制した。リーチ平和ドラ2、ツモって2000―4000のアガりとなる。
朝倉に続いて今度は滝沢。多井の手が止められていく。むう、歯がゆい。
東3局。
多井の勢いが止まってしまった。6巡目、上図の手から何を切るだろうか。