“多井隆晴vs朝倉康心”新旧エース同士の世代闘争勃発!【熱論!Mリーグ】

熱論!Mリーグ【Tue】

“多井隆晴vs朝倉康心”

新旧エース同士の

世代闘争勃発!

文・ZERO【火曜担当ライター】2018年10月9日

Mリーグのルールの中で、これまでのタイトル戦と大きく違うのは「赤アリ」の部分である。このルールに一番適応能力があるのは誰か?と聞かれたら私はまずこの打ち手を挙げる。 朝倉康心。今年デビューしたばかりの新人プロだが、「赤アリ」であるネット麻雀「天鳳」にて他の追随を許さない好成績を収め、またトッププロを交えた天鳳名人戦でも優勝を経験している。

「いやいや、他のプロだって普段赤アリ打っている人は多いし、みんな対応力はあると思うよ」

そのような声が聞こえてきそうだが、何もわかっていない。麻雀において「ルールへのアジャスト」というのは何よりも大切なうえ、難しく、そして体に染みついた癖というのはなかなか抜けきらないものだ。

現に腰の重いプロの成績は、軒並みマイナスを重ねているではないか。 巷の雀荘ではどうしても平均レベルが落ちる。仕掛けの信頼度や先制できる確率も変わってくるだろう。

またスタッフとして働いていたりすると、卓入り中に接客にも気を配らないといけないわけで、麻雀に集中できないことも多いはずだ。

そんな中、彼はある程度実力が担保されたメンツの揃う鳳凰卓(天鳳で最上位の卓)で何年も真摯に赤アリ麻雀と向き合い、またトッププロとも互角以上の戦いを繰り広げてきた。身内ひいきを差っ引いても、この差は意外に大きいと思っている。

対抗しうるならやはりこの男だろう。 多井隆晴。

Mリーグで真のプロ21人が誕生したわけだが、それ以前に真のプロと呼べる人はこの人だけだと思う。

解説などで喋っているところをみると、明るく、おちゃらけたお兄さんにしか見えないかもしれない。しかし、実はその陰では我々が想像もつかないような量の努力をしている。

ありとあらゆる麻雀配信を網羅し、日々研究しているのだ。 一度お会いしたことがあるのだが、本当に一日中麻雀の話しかしないので「麻雀が好きなんですね」と、今思えばかなり失礼にあたることを言ってしまった記憶がある。

そしたら多井はあの解説席でみせるとびきりの笑顔で「俺、今まで麻雀しかしてきてないからさ」と答えてくれた。

そんな多井は本人も忘れるくらい多くの大会で優勝し、そして麻雀界の発展にずっと尽力してきた。このMリーグにかける思いも相当だろう。

朝倉VS多井

私の注目する新旧の麻雀バカが本日、Mリーグの舞台で初めて顔を合わせた。 東一局。親の多井の手牌。 前巡に切ったを引き戻した。こういう引き戻した牌というのは安易にツモ切ってしまいがちだが、このにくっついたら強い受けになる。多井も小考したが、ドラがではその効果も薄いと見たのだろう。 (ドラがだとからどのみちは早めに打たれるという意味) しぶしぶ河にを並べた。この選択から、多井が打点(ドラそば)よりも好形(ピンズの4連形)を重視していることがわかる。 同巡の紅一点、茅森。 この打は非常にもったいない。

「2シャンテンでチートイに決めるべからず」 この手はにくっつけば簡単にタンヤオドラ3で仕掛けていける。

2シャンテンでチートイツに決めてしまうとアガリ率が極端に落ちてしまう。厳しい言い方だが、このままでは防戦一方の展開になってしまうことが想像できる。
チートイツもにらみつつ、を切るのが良いだろう。 続いては朝倉の手牌。 この手牌から打。チャンタと三暗刻、ドラ受けを残したお手本のような一打。が多井の現物であるということもあるだろう。 多井が狙い通りピンズの好形を活かしてテンパイ。高めのをツモって2600オール。 上々の出だしとなった。 次局の朝倉。 この手牌で対門から打たれたをスルーしている。かなり厳しい手牌だが、だからこそをポンしないと厳しいともいえるわけで、遠くにホンイツやトイトイを見ながらポンをする手はあったと思う。実際U-NEXTのメンバーの小林、石橋は鳴きそうだ。しかし、多井の上家で鳴くと多井のツモが増えるうえ、自分の守備が不安になる…と判断したのだろう。このスルーをみて、多井を走らせないように意識しているな…と感じた。 このツモ切りは意外だった。くっつけばジュンチャンで、高打点になるだけでなく仕掛けていける。早そうな人がいるわけでもなく、ここはもう少し手牌の可能性を広げてもよかったと思うがどうだろう。 この局は、結果的にスルーが吉とでたか、朝倉が佐々木から3200のアガリ。好形・守備・速度を重視する多井と、その多井をマークしている朝倉がとても印象的な滑り出しとなった。 次局。多井は まだどこからも仕掛けが入っていないのに、オリている。 「配牌オリ」 その言葉は知っている。しかしみなさん、自分の胸に手を当てて聞いてみてほしい。

こんな早い段階で徹底してオリたことがあるだろうか?と。ちなみに私はない(笑) スリムに構えることはあれど、たとえばこの手なら発が重なったときに備え、ある程度の形は維持すると思う。

自らを守備型と称する多井の選択「配牌オリ」は、リードしたチームにやられると追いかける側としては厳しくなるのかもしれない。と感じた。

実際、下家の親である茅森はこの局テンパイすらすることができず、流局している。 次局の多井。 ドラが3枚あるこの手牌から何を切るか。タンヤオを強く意識してを切りそうな場面だが、多井はを切った。おそらく佐々木の一打目の切りと朝倉の切りをみて、ほんのりがよいと感じたのだろう。 ここも難しい。がよいと思っているだけにイーシャンテンには受けるとして、の選択。にくっついたときに仕掛けていけるように打がよいと思ったが、場に打たれている2枚の、親の佐々木の現物であるをみて多井はを切った。結果的にこの選択がまた功を奏した。 この場面で茅森のリーチを受けて、打としているが、が残っていたらかなり押しづらかっただろう。実際同巡に 佐々木がでテンパイを果たしている。を先に処理したことによって多井は このテンパイで2件リーチに押し切り、8000のアガリをものにした。たった1牌のあとさき。

このアガリで何かのスイッチが入ったのだろうか。 まずはドラ3を朝倉から直撃。 朝倉は この手牌から中筋のを切って放銃。

なんで多井(下家)の現物のを切らないの?と思った人も多かったかもしれないが、多井の捨て牌からまだテンパイの可能性は低く、他の人からリーチがかかったとき(特にドラを鳴かせた茅森)に備えては残したかったのだろう。

続く南一局も親の多井が、佐々木から2900のアガリ。佐々木は余る牌が放銃になってばっかりで、開幕からずっと厳しい。

多井はさらに500は600オール、5800は6400と立て続けにアガリ、小林の持つMリーグ記録の「5連続アガリ」に並ぶ。 そして記録のかかった一局。 朝倉はこの手からをツモってすぐに打とした。が2枚切れているし、他がリャンメンなので先に切っておいての押し返しを図ったのだろう。実際と払いきったところで茅森からリーチが入るが 安全に押し返せる態勢は整っている。スリムに構えることは守備だけでなく、こうして攻撃にもつながるという好例だ。そして朝倉の10巡目。 このをツモ切り。1枚切れのの危険度が高いと思っているわけではなく、リーチのみでの追っかけは点棒状況的に見合わないという判断だろう。周りが押し返しているわけでもなく、やや消極的な判断にもみえる。 このに食いついたのが多井。 ここからチー。これがあれよあれよといううちにテンパイし 6連続アガリ。新記録達成の瞬間である。 多井の独壇場にみえたが、オーラスでは朝倉があとひとアガリというところまで追いつめ、 逆転手が入る。チートイドラドラをヤミテンに構えるも。 茅森が仕掛けを入れるや否や… 即座にリーチでたたみかける。

これは茅森にまっすぐ打たせない意図と、多井がその茅森に対しアシストしにくいように牽制の意味も大きいだろう。

完全順位戦の天鳳で培ってきた好判断が冴えわたる。 全員を押さえつけることには成功したが、アガリには結び付かず、流局。

次局は茅森がアガり、結果辛くも多井が逃げ切った。

戦いは終わった。

新旧のエース対決は、多井に軍配が上がった。 瀬戸熊プロや河野プロ、これまで多くのプロが多井のライバルとして挙げられてきたが、なかなかこの男は負けない。

朝倉が新たなライバルとしてMリーグの舞台で熱い戦いを繰り広げ、大いに盛り上げてほしい。多井だけに。

…今後もこの二人の戦いに注目していきたい。

(多井+68.1 朝倉+18.0 茅森-15.3 佐々木-70.8)

ZERO(ゼロ)
麻雀ブロガー。フリー雀荘メンバー、麻雀プロを経て、ネット麻雀天鳳の人気プレーヤーに。著書に「ゼロ秒思考の麻雀」。現在「近代麻雀」で『傀に学ぶ!麻雀強者の0秒思考』を連載中