全員が執念のテンパイ取りで小林を追い詰めていく。
そして、逃げ切るしかない小林の最後のツモ番。
ツモ山に非常にも積まれていたのは…だった。
あまりにも痛すぎる5200の放銃。
小林は5秒ほどフリーズした。その時間が、永遠にも思えた。
これでオーラスは跳満ツモ条件、しかも内川と多井が普通にアガリに向かってくる。
絶体絶命、まさにクライマックスだ。
南4局
最終局。小林は力を使い果たしてしまったのか、配牌はボロボロだ。
跳満の影も形も見えていない。それでも逆風に抗い、国士かソーズの一色手に向かっていく。
しかも多井がドラをポンして、バックで終わらせにかかっている。
これはダメだ。もう終わりだ。
しかし、一筋の光が見えていた。近藤が親リーチを放ったのだ。
近藤も14万点の奇跡のトップに向けて、不死鳥の宿る左手をはばたかせる。
何度も奇跡を起こしてきた夢芝居を、もう一度。全身全霊で打ち抜いていく。
それでも小林にとっては、ツモられれば倍満条件になってしまう。
横移動か流局連荘を願うしかない、細い細い糸だった。
そして、テンパイを入れていた多井が、近藤のロン牌のを掴む。
フェニックスとパイレーツの執念が掴ませただった。
多井はを打ち抜いて、近藤が3900のアガリ。
細い細い糸が、まだ繋がっている。戦いはオーラス1本場へと突入した。
小林の配牌は、先ほどよりは大分マシだ。
いつもならやらないが、今回はやるしかない。すぐさまを暗槓する。
を重ねるか、周りでメンツを作れば跳満が見える。これで本当の最後。最後の一秒まで、可能性を追い求めていく。
しかし、時間は、相手は、小林を待ってはくれない。
5巡目にして、内川からの神速の先制リーチ。は残り4枚。
「小林さん、最後まで、僕は全力で戦います」
小林の手は全くまとまらず、ソーズが打てない。
もう一度、近藤に託すしかない。チラリと近藤の河に目を向ける。
そして近藤も、ここは譲れない。
執念でを暗刻にしてのテンパイを入れる。
この際、倍満ツモ条件でもいい。局が繋がれば何でもいい。
あまりの近藤の迫力に、フェニックスファンとパイレーツファンは「やったか!?」と叫んでいた。
「ツモ」
近藤と小林に希望が見えた瞬間、サクラ色の剣が振り下ろされた。
内川のツモ。パイレーツの航海と、フェニックスの飛翔は、ともに終わりを告げた。
麻雀は、勝者と敗者が必ず生まれる競技だ。
それを分かっていても、この瞬間の喪失感は筆舌に尽くしがたいものがある。心が締め付けられる思いだ。
90戦中31戦を戦い抜いて、ラス1回、回避率97%という驚異的な数値を叩き出した船長・小林剛。