“その牌を触れば終わる”小林の歩みを支えるのは、勇気でも祈りでもなく━━【週刊Mリーグ2021レポート11月1~5日】文・須田良規

ここまでロジカルに打牌をなぞれば、そう難しい軌跡ではないのかもしれない。
しかし、小林は眉一つ動かさず、淡々と正着打を河に置いてゆく。

もちろん渋谷ABEMAS多井隆晴TEAM雷電萩原聖人EX風林火山二階堂瑠美のように、苦悶や勝負の表情を露わにする選手がいたっていい。Mリーグは人間同士の戦いであり、エンターテイメントだ。

見ている者の共感を誘い、選手と共に一喜一憂できるならば、その空間の演出も選手の個性だと思う。

ただ、小林は辛いとか苦しいとかいう心情を見せたことは、ただの一度もないと思う。

この地雷原も、自分の理でひたすらに歩みを進めるしかないことをわかっているから、
無心に自分の感情を押し殺して、恐怖心を周囲に意識させることもなく、ただただ前に進む。

次巡小林は、【4マン】を引く。

ここで完全に自分の手の形を留めることはできなくなる。
安全牌は【7ピン】しかないが、未練も見せず【7ピン】を抜いた。

これで小林の進撃の物語は終わったと思った。
何と言っても浮いている【9ピン】は放銃牌だ。
あとは何とか安全牌をやりくりして━━、伊達が山と戦うのを傍観するだけだ。

次巡伊達が【中】をツモ切り。小林も【中】を合わせて打つ。
本当にギリギリの手牌なのである。

12巡目、小林の手牌に現物が尽きる。

全体の捨て牌はこう。

伊達が今【6ピン】をツモ切り、【9ピン】がスジだ。
しかし、【9ピン】は切れば終わる。

小林は、アンコの【5ソウ】に手をかけた。ちょうど【3ソウ】が4枚打たれたところだった。
首の皮1枚である。
展開の運ではあったが、それを見逃さず、あくまでも冷静に唯一の正着を選ぶのが小林だ。

東1局にいきなり訪れた悪夢のような状況を、精密機械が一打の狂いもなく凌いでいくのが見る者を興奮させた。

17巡目、伊達が【7マン】をツモって切る。

小林の手は前巡にこうなっていたので━━

伊達の【7マン】を鳴けば、【5ソウ】切りで形式テンパイは取れる格好。
残り巡目も少ないため、これは鳴くのではないか? と誰もが思った。

しかし小林はスルー。山に手を伸ばす。

ここで【5マン】【6マン】をさらしてしまうと、手の内に唯一残る現物の【6マン】を消費してしまう。
自身のツモ番がまだあり、次に危険牌を引いたときに窮する。

すると神のいたずらか、この瞬間堀が持ってきたのが伊達のアガリ牌である【6ソウ】だった。

小林が、目先の形式テンパイに飛びついていたら伊達の6000オールとなっていた牌。
代わりに伊達が持ってきたのは、【7ピン】だった。

小林が、「チー」と叫んだ。

自身で2枚切っている【7ピン】だ。
自分の捨てた牌を鳴き返す。抵抗がある人もいるかもしれない。
しかし、これでやっとたどり着いた形式テンパイ。
残りツモは1回で、安全牌の【6マン】も確保されている。

世間の価値観というものはわからない。こうした足掻きを好まない人もいるかもしれない。

しかし、ここまで一連の、伊達の危険牌を打たぬように打たぬように自らのロジックのみで突き進んで、
自分の切った牌を鳴き返してテンパイを取った行為を。
美しいとは、思わないだろうか。

ただ小林の物語は、これが終焉ではなかった。

小林の、最後のツモ番━━。

めちゃくちゃに生牌【2ピン】である。

ここまでで場に見えていない牌は、【1マン】【2マン】【3マン】【4マン】【5マン】【2ピン】【5ピン】【8ピン】【9ピン】【2ソウ】【6ソウ】
うち当たり牌は【9ピン】【6ソウ】であるが、実際伊達はトイトイなのかそうでないのかわからない。
11種のうち当たり牌は1種か2種か。それにしたって12000以上確定、18000以上も全然あり得る。

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