ともあれ魚谷は、新年一発目に、セガサミーフェニックスへトップを持ち帰ることができた。
さて、このオーラスなのだが──、
私は一つ気になったことがあった。
魚谷は、寿人のリーチに差し込むべきだっただろうか?
こう思うのは、私がMリーグと同じトップにオカのある協会ルールを長くやってきたせいかもしれないが、
協会ではこういうとき、かなり放銃してもいいつもりで打つことが多いと思う。
自然に進めるか、率先して打つか、だ。
寿人のリーチ棒で二人にハネツモ条件ができて、
ましてやドラがだ。
さえあればダブドラ、偶発的なハネツモが起きることもある。
実際堀は、なぜ魚谷が降りているのか疑問に思っていたらしい。
そしてここ。
長考のこの部分。
これは寿人の待ちを考えているわけでは全くなく、
魚谷の動向を読みあぐねていたのだ。
(ここまで魚谷さんは、完全にベタオリしている。
多井さんもハネツモ条件だぞ? 差さないのはなぜだ・・・)
(もしかしたら──、さっきのチョンボが影響してるとか?
リーチ棒が出て、多井さんにも条件できたことに気づいてないとか、あるんだろうか・・・)
(なら、ここで自分がという強い牌を切れば──、
我に返って、寿人さんに危険牌も抜いてくるんじゃないか?)
(は切りの多井さんが固めている可能性も高い。
よってこれは、リーチでハネツモを狙うより、
魚谷さんが寿人さんに抜くかもしれないで、満直を狙ってみるか)
堀の思考の内訳は、こうだったのである。
しかし結局魚谷は、寿人に当たるような牌を切ることはなく──、
堀も満直を諦め、最終形は待ちを広くしてのリーチでハネツモを選んだわけだ。
さて、では魚谷の思考も気になるところだろう。
これも直接、本人に聞いてみることにした。
「もちろん多井さんにも、ハネツモ条件出来たのはわかっています。
ただ私は──、差し込みはよほどの状況でないとしません」
元々魚谷に、差し込む気はなかったという。
実際この場面、率先して寿人に振り込んだ方がいいかどうかは、よくわからない。
堀か多井が寿人のリーチをくぐり抜け、出アガリもしないでハネマンをツモる──、
この未来さえ起こらなければ、魚谷がわざわざ放銃する必要は、確かにない。
差し込みのデメリットは、単純に素点の損。
そして万一寿人が倍満だった場合が最悪だ。
もう一つ。これは堀が語っていたのだが、
魚谷が差し込みに回ってそれが当たらなかった場合、
堀と多井双方に、道を開けてしまう。
通しにくい牌を通すことができるようになり、結果ハネツモのルートを作ってしまう。
これが最も起こり得るデメリットだろうと。
なので堀によれば、自身が魚谷の立場なら差し込むが、差し込まない選択もあるにはあると。
魚谷は、堀が予想した差し込みはせず、ベタオリで局を耐える方を選んだ。
「確かに──、普段通りの思考はできなかったかもしれません。
しかし、私はこの差し込みに回る行為が最悪の結果になった場合に、
自分のプロ生命がかかってしまうと思っています。
なので、絶対に差し込むべきだ、という状況じゃないとしないですね」
魚谷は、これまでの人生でとてつもない数の放送対局を経験してきて、
自身の麻雀が認められなかった苦しい過去もたくさんある。
万人が納得する麻雀を、常に意識しているのである。
このオーラス、堀は、魚谷が失策を引きずっているのかと想像し、
それを揺り動かすための切りダマを選んだ。