しかし、それには「が通せれば」という前提条件がつく。そしてに、通る確実な保証はない。
時間をかけ、打ったのは現物。亜樹はオリた。相手がラス目の親で、トップ目からは行きにくいのも理由の一つではあっただろう。「勝負どころはここじゃない」。亜樹は試合後に、この場面を振り返って語った。
沢崎の待ちはまさしく、亜樹が止めただった。結果は流局。
この局面については、解説の藤崎智が非常に興味深いことを言っていたので、そのまま紹介したい。
「亜樹みたいなタイプは、が通る理由を探す。この場合、実際にが当たり牌だから、通る理由はだいたい見当たらないので切らない。だから切るならノータイム、少考するなら切らないとなる」
「今主流の『デジタル』と呼ばれている人たちは、打ってもいい理由を探す。だから少考後に放銃になることもある」
これはどちらが正しいかという話ではなく、思考方法の違いである。もちろん、押してアガリを取れることも、オリてアガリを逃すケースも、間違いなくある。ただ、いずれにしてもそこに至る根拠がトッププロにはあるわけで、それを考えてみるのは、麻雀のレベルアップを考えるのであれば重要なことだと思う。東1局の押しも強気がどうこうではなく、彼女の中で冷静に精査し、通る理由が見つかったから打った、ということだったのかもしれない。
その後は茅森の満貫、沢崎のハネ満ツモと高打点が飛び出したが、亜樹が逃げ切ってトップを獲得。対局後にはカメラに向かってにこりと笑い、頭を下げた。
「苦しいのは自分だけじゃない」
その言葉を聞いてすぐに、手元のメモにペンを走らせた。麻雀を打っているとどうしても、自分ばかりがキツいように思ってしまうことがある。ただ、相手にだって厳しい状況はあるのだ。それは卓内の戦いだけでなく、今のMリーグのような、ファイナル進出争いの局面であっても一緒だ。亜樹がセミファイナル初トップを取ったとはいえ、未だ風林火山は厳しい状況に置かれている。しかしメンバーは亜樹を筆頭に、そのなかでも活路を見いだそうと、冷静に、熱く闘い続ける。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。