Pirates・石橋伸洋の一番長い日 Mリーグ2021-22コラム【文・ZERO/沖中祐也】

ロンと言われた瞬間にラスに落ちてしまう状況。

そしてそのラスだけは避けなくてはいけない状況で、石橋は踏み込んだ。

こうした形式テンパイへの粘り、大物手を阻止するためのかわし手など、この四年間で石橋は随所に高い技術を見せてくれた。しかしなぜかあまりそのファインプレーは取り上げられることは少なかった。

参考動画↓

【Mリーグ】石橋伸洋・バリュー・プロポジションを提供できるような麻雀!【マニア倶楽部】.

自分の手をアガることと同様に、相手の手を潰すことは大切だ。

ただ、この局の進行にはやや疑問が残る。

石橋はここから【赤5マン】を切った。

789・678の三色に的を絞り、危険な牌を先に処理した格好だ。

しかし三色にするためには【9ピン】【9ソウ】など、必要な牌が限定されてしまう。

一方で【赤5マン】はツモ【4マン】【5マン】【6マン】で使い切れ、確実に1ハンアップする。

ここは全員の安全牌を持っていることだし、高打点へのルートを可能な限り残すために【西】を切ってもよいのではないか。

石橋のフォームとして、かわし手に比重が置かれている印象がある。

さらに石橋はここから打【6ピン】とした。

789の三色を残した選択だ。

しかし、さきほども言った通り、三色にするためにはソウズの135で頭ができた上で【9マン】【9ソウ】と必要牌が限定的となる。

ここは打【1ソウ】として、789だけではなく678やタンヤオといったルートを見てもよいのではないか。【1ソウ】を残したツモ【2ソウ】はつまらないテンパイになる可能性が非常に高い。

相手の手を潰すことに関してはスペシャリストだが、高打点へのルートを残すことに関してはやや消極的だったように感じる。

こうして迎えた親番で…

松ヶ瀬のダマテンハネマンに飛び込んでしまう。

高打点よりアガリが必要なラス前において、この【5マン】は多くの人が切る手牌だ。

「ロン、12000は13500」

松ヶ瀬の手牌を見て、顔を歪める石橋。

肩を落とし、大きくため息をつく。しかし…

振り絞るように「はい」と返事をして点棒を払った。

麻雀は理不尽なゲームだ。

でもその世界に飛び込んだ以上、その理不尽なことを受け入れなくてはならない。

敗者が勝者を心から称えてこそ、ゲームとして成り立つのである。

この【5マン】放銃の瞬間、Piratesの控室では

(Piratesのオンラインパブリックビューイングより)

瑞原は崩れ落ちるように顔を伏せ、朝倉は呆然としていた。

その中で小林だけがポツリと

「マンツモ条件か…」

と冷静に戦況を見守っていた。

そうだ、戦いはまだ終わっていない。

石橋が毅然と返事をしたのも、まだ戦いの最中だからだ。

しかしオーラス、石橋の粘りも虚しく…

白鳥のアガリで決着。石橋はラスになってしまった。

こうして冒頭の涙のインタビューへとつながる。

言葉を紡ぎ出そうとすると、内なる感情が溢れ、言葉にならない。

控室でも

瑞原が嗚咽をもらして泣き、またしても朝倉は呆然としていた。

そしてやはり小林は「風林火山とABEMASと格闘倶楽部との点差をください」と冷静に状況を分析していた。

なぜ、石橋の涙が、ここまで大衆の心を打ったのか。

それは蓄積された意外性にある。

石橋はこれまで、常にニコニコしていて、あまり感情を表に出さなかった。

2019シーズンにPiratesが優勝したときも、石橋はニコニコと笑っていた。

「石橋はああ見えて、熱い男だ」

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