ロンと言われた瞬間にラスに落ちてしまう状況。
そしてそのラスだけは避けなくてはいけない状況で、石橋は踏み込んだ。
こうした形式テンパイへの粘り、大物手を阻止するためのかわし手など、この四年間で石橋は随所に高い技術を見せてくれた。しかしなぜかあまりそのファインプレーは取り上げられることは少なかった。
参考動画↓
【Mリーグ】石橋伸洋・バリュー・プロポジションを提供できるような麻雀!【マニア倶楽部】.
自分の手をアガることと同様に、相手の手を潰すことは大切だ。
ただ、この局の進行にはやや疑問が残る。
石橋はここからを切った。
789・678の三色に的を絞り、危険な牌を先に処理した格好だ。
しかし三色にするためには→など、必要な牌が限定されてしまう。
一方ではツモで使い切れ、確実に1ハンアップする。
ここは全員の安全牌を持っていることだし、高打点へのルートを可能な限り残すためにを切ってもよいのではないか。
石橋のフォームとして、かわし手に比重が置かれている印象がある。
さらに石橋はここから打とした。
789の三色を残した選択だ。
しかし、さきほども言った通り、三色にするためにはソウズの135で頭ができた上でと必要牌が限定的となる。
ここは打として、789だけではなく678やタンヤオといったルートを見てもよいのではないか。を残したツモはつまらないテンパイになる可能性が非常に高い。
相手の手を潰すことに関してはスペシャリストだが、高打点へのルートを残すことに関してはやや消極的だったように感じる。
こうして迎えた親番で…
松ヶ瀬のダマテンハネマンに飛び込んでしまう。
高打点よりアガリが必要なラス前において、このは多くの人が切る手牌だ。
「ロン、12000は13500」
松ヶ瀬の手牌を見て、顔を歪める石橋。
肩を落とし、大きくため息をつく。しかし…
振り絞るように「はい」と返事をして点棒を払った。
麻雀は理不尽なゲームだ。
でもその世界に飛び込んだ以上、その理不尽なことを受け入れなくてはならない。
敗者が勝者を心から称えてこそ、ゲームとして成り立つのである。
この放銃の瞬間、Piratesの控室では
(Piratesのオンラインパブリックビューイングより)
瑞原は崩れ落ちるように顔を伏せ、朝倉は呆然としていた。
その中で小林だけがポツリと
「マンツモ条件か…」
と冷静に戦況を見守っていた。
そうだ、戦いはまだ終わっていない。
石橋が毅然と返事をしたのも、まだ戦いの最中だからだ。
しかしオーラス、石橋の粘りも虚しく…
白鳥のアガリで決着。石橋はラスになってしまった。
こうして冒頭の涙のインタビューへとつながる。
言葉を紡ぎ出そうとすると、内なる感情が溢れ、言葉にならない。
控室でも
瑞原が嗚咽をもらして泣き、またしても朝倉は呆然としていた。
そしてやはり小林は「風林火山とABEMASと格闘倶楽部との点差をください」と冷静に状況を分析していた。
なぜ、石橋の涙が、ここまで大衆の心を打ったのか。
それは蓄積された意外性にある。
石橋はこれまで、常にニコニコしていて、あまり感情を表に出さなかった。
2019シーズンにPiratesが優勝したときも、石橋はニコニコと笑っていた。
「石橋はああ見えて、熱い男だ」