たしかにライバルのリーチは勝負すべきだが、ここで親マンでも放銃しようものなら、致命傷になりかねない。
チャンスがくるかどうかわからない。
しかし本当にチャンスがきたとき、それを本当のチャンスにするため、ここは一旦我慢したのだ。
近藤の止めたは堀の当たり牌ではなかったものの
次に掴んだは当たりだった。
堀はを切っていて近藤自身がをポンしているので、もしあそこでを勝負していたらこのも止まらなかった可能性が高い。
近藤の我慢が、フェニックス優勝への望みをつないだのだ。
──そして、くるかどうかわからないチャンスはすぐにやってきた。
ドラドラ赤のチャンス手。近藤はここからをツモ切りする。
が自身の目から3枚見えているのと、早そうな多井の安全牌()を残しておきたかったのだろう。
これも先ほどの堀の打のような、押し返したいからこそスリムに構える例だと言える。
しかし、この打が裏目となった。
待ちのフリテンになったのだ。
いや、フリテンだろうが構わない。このチャンスのために今まで我慢してきたんだ。
「リーチ」
フェニックスの運命を乗せた、決意のフリテンリーチ。
ツモる手にも力が入る。
そして、それは最後のツモ番だった。
「カッ!」
「ツモ」
「40008000は41008100」
リーチ・ツモ・タンヤオ・ピンフ・ドラ・裏・赤赤の倍満。
サクラナイツ堀に親かぶりさせ、優勝へ大きく近づく一撃!
PV会場のフェニックスサポーターは歓喜の雄叫びを上げる。
年々、最終戦の盛り上がりが高まっているように感じる。
おそらく、各チームとも戦いを重ねるにつれ「勝ちたい気持ち」や「負けられない理由」も積み重なっていくからだ。
逆転まであと1牌というところで負けた2年前をフェニックスサポーターは決して忘れない。
あの日の無念を、2年越しの卓上で晴らす時がきたのだ。
ただ、この倍満をアガった瞬間、私はたしかに聞いた。
「はい」
の一言を。
これは多井の返事なのか、滝沢の返事なのか、それとも──
南1局、滝沢の親が落ちる。
以降、滝沢は黒子に徹した。
優勝が現実的でなくなった時の打ち方は永遠のテーマではあるが、黒子に徹するというのも1つの道である。
すごかったのは全ての選択をノータイムで行っていたことだ。
どう打ったところで何かしらの影響を与えてしまう麻雀というゲームにおいて、極力その影響を小さくのは並大抵のことではない。
それを同卓者や視聴者にとっても邪魔にならないよう、ノータイムで処理していたのだ。
敗者の意地、プライドを見た滝沢の、そして格闘倶楽部の堂々たる幕切れだった。
そしていよいよ3チームにおけるラストバトルが始まった。
南2局、多井の親番。
堀が考え込む。
あの冷静沈着な堀ですら、一打一打に力を込めている。
「強いやつと打ちてえ」
その思い1つで麻雀を打ち続けてきた堀にとってMリーグの卓上ほど喜びを感じる舞台はないだろう。
──きっとそうだ。
何度聞き返しても、決意のこもったあの「はい」の返事は堀の口から発せられた返事に聞こえる。
リードしているところから倍満親被りという痛恨の一撃を喰らったら、並の神経をしていたら声なんてでないはず。