「はい」の返事はきっと彼のもの 最後の最後まで勝負を楽しむサクラナイツの小さな天才【Mリーグ2021-22ファイナル観戦記4/26】担当記者:ZERO/沖中祐也

たしかにライバルのリーチは勝負すべきだが、ここで親マンでも放銃しようものなら、致命傷になりかねない。

チャンスがくるかどうかわからない。
しかし本当にチャンスがきたとき、それを本当のチャンスにするため、ここは一旦我慢したのだ。

近藤の止めた【7ピン】は堀の当たり牌ではなかったものの

次に掴んだ【6ソウ】は当たりだった。
堀は【9ソウ】を切っていて近藤自身が【5ソウ】をポンしているので、もしあそこで【7ピン】を勝負していたらこの【6ソウ】も止まらなかった可能性が高い。

近藤の我慢が、フェニックス優勝への望みをつないだのだ。

──そして、くるかどうかわからないチャンスはすぐにやってきた。

ドラドラ赤のチャンス手。近藤はここから【5ソウ】をツモ切りする。
【6ソウ】が自身の目から3枚見えているのと、早そうな多井の安全牌(【9ソウ】)を残しておきたかったのだろう。

これも先ほどの堀の打【4ピン】のような、押し返したいからこそスリムに構える例だと言える。

しかし、この打【5ソウ】が裏目となった。

【2ソウ】【5ソウ】【8ソウ】待ちのフリテンになったのだ。
いや、フリテンだろうが構わない。このチャンスのために今まで我慢してきたんだ。

「リーチ」

フェニックスの運命を乗せた、決意のフリテンリーチ。
ツモる手にも力が入る。

そして、それは最後のツモ番だった。

「カッ!」

「ツモ」

「40008000は41008100」
リーチ・ツモ・タンヤオピンフ・ドラ・裏・赤赤の倍満。
サクラナイツ堀に親かぶりさせ、優勝へ大きく近づく一撃!

PV会場のフェニックスサポーターは歓喜の雄叫びを上げる。

年々、最終戦の盛り上がりが高まっているように感じる。
おそらく、各チームとも戦いを重ねるにつれ「勝ちたい気持ち」や「負けられない理由」も積み重なっていくからだ。

逆転まであと1牌というところで負けた2年前をフェニックスサポーターは決して忘れない。

あの日の無念を、2年越しの卓上で晴らす時がきたのだ。

ただ、この倍満をアガった瞬間、私はたしかに聞いた。
「はい」

の一言を。

これは多井の返事なのか、滝沢の返事なのか、それとも──

南1局、滝沢の親が落ちる。

以降、滝沢は黒子に徹した。
優勝が現実的でなくなった時の打ち方は永遠のテーマではあるが、黒子に徹するというのも1つの道である。
すごかったのは全ての選択をノータイムで行っていたことだ。

どう打ったところで何かしらの影響を与えてしまう麻雀というゲームにおいて、極力その影響を小さくのは並大抵のことではない。
それを同卓者や視聴者にとっても邪魔にならないよう、ノータイムで処理していたのだ。

敗者の意地、プライドを見た滝沢の、そして格闘倶楽部の堂々たる幕切れだった。

そしていよいよ3チームにおけるラストバトルが始まった。

南2局、多井の親番。
堀が考え込む。

あの冷静沈着な堀ですら、一打一打に力を込めている。

「強いやつと打ちてえ」
その思い1つで麻雀を打ち続けてきた堀にとってMリーグの卓上ほど喜びを感じる舞台はないだろう。

──きっとそうだ。
何度聞き返しても、決意のこもったあの「はい」の返事は堀の口から発せられた返事に聞こえる。

リードしているところから倍満親被りという痛恨の一撃を喰らったら、並の神経をしていたら声なんてでないはず。

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