堀の話によると、
小林はハネツモも2着浮上がなく、多井・堀はまず放銃しない。
そしてリーチ棒を出すと東城は4200差になるので、ノーテンを選択しやすくなる。
リーチするとラスのまま流局終了の可能性が高い、という見立てなのである。
これは確かに興味深い選択の違いである。
もちろん小林にもこの是非を尋ねてみた。
「いや、これはリーチでアガれた場合の価値がかなり高いと思う。
多井・堀からなら、順位点入れると
13200(裏なし同点3着)か、
28000(裏裏単独3着)か、
48000(堀から裏裏2着)のプラスになる。
東城からだと、
ダマ11600が23200に浮上する。
デメリットは、一人テンパイでこの局逆転終了がなくなること。
まあでもダマで東城がテンパイだと結局3200点差のままもう1局やらなければならないので、それも結構ラスの可能性高いよね」
小林の考えでは、出アガリがあるものと見積もって、リーチが優位であると。
実際リーチ棒が出て堀はマンツモ条件になるので、堀がマンガンテンパイならくらい切ることは期待してもいい。
また、捨て牌が強く、多井あたりからがトイツであれば手詰まりで切られることもあるのではないだろうか。
小林から見た全体図はこうである。
現実には多井・堀に安全牌は足りる。ただ小林からそれはわからない。
Mリーグ成績速報(非公式)様のデータによれば、多井と堀の過去オールシーズン総合での放銃率は、多井9.26%、堀8.87%という驚異的なものである。
『小林、俺たちは打たないよ』
とこの数字が暗にささやいているようで、空恐ろしくなる。
小林も、
「確かにダマで見逃してツモ切りリーチとか、多井からホウテイならアガるとか、考えることは残るよね」
と、ダマによる選択の猶予を挙げてくれた。
これは私としても正直言ってどちらがいいのかわからない。
個人的には小林寄りの考えではあるものの──、
多井と堀という絶対堅守の双璧が。
リーチを受けた当事者として、同卓していてそう思ったのならば、これは見過ごせない検討材料ではないだろうか。
東城の選択も、小林の選択も、
私たちに貴重な思考の機会を与えてくれた。
こんな序盤から、強者たちの思考の螺旋と衝突が、これから間違いなく起こる波乱を予期させる。
今年も、一筋縄ではいかないな──。
また、新しい思考と熱意の競演がスタートした。
皆さんと一緒に、麻雀の織り成す数々のドラマを楽しんでいきたいと思う。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki