千羽が鳴ける牌を探す……が、そもそも歌衣に放銃したら意味が無い。
鴨神の額に、冷や汗が流れた。
時間を目一杯使って、千羽も2人がポンできる牌を探す。
だが、無い。
千羽も完全安牌のを切り出した。
公式配信もにわかに色めき立つ。
まだ2枚あるのだ。歌衣のアガリ牌、が。
海底撈月。
今大会のボーナスにも指定されているその役は、水面に映った月を、間違って掬い取ってしまう無駄な動きという意味らしい。
――「関係ねえ」と、声が聞こえた。
歌衣の右手が、奇跡を強引に掴み取った。
無駄なことなんてない。
海底にがいるのは偶然。
けれど、その偶然に至るまでの積み重ねを、歌衣がし続けた証拠。
「まだ終わっちゃいねえぞ!」
裏も乗せての三倍満は、一気に勝負が分からなくなった。
ゼウスとアトラスの差は、拮抗している。
歌衣が魅せれば、鴨神も魅せる。
南3局
終盤にテンパイを入れた鴨神が、ドラドラのリーチ。
勝利は自分の手でつかみ取る。
一方千羽も、このチャンスを待っていた。
先負のボーナスチャンス。
鴨神のリーチに狙いを定めて、追いかけリーチを敢行。
軍配は鴨神に上がった。
先負のチャンスすら与えない、一発のツモアガリ。
これでもう一度ゼウスが前に出る。
勝負はオーラスへ。
トップ目鴨神が、僅か3巡でテンパイ。
待ちはドラのペンと良くはないが……
リーチで踏み込む!
もう退路は断った。自ら掴み取る。
泥臭い待ちで良い。華なんかなくて良い。
だからどうか
優勝という実が欲しい――!
歌衣だって引けない。いや引いたことが無い。
退路を断っての全面対決。
一発で持ってきたを容赦なく切り飛ばす。
あらゆる無スジを切り飛ばす。
オリるなんて選択肢は、漢歌衣メイカにはない。
テンパイ……! 鴨神の待ち牌を引き入れて、待ちはカン。
を切って12000のテンパイだ。
優勝を巡る争いが激化する。
このめくり合いを制したのは――
歌衣だ!
カンをツモって4000オール!
このアガリでもう一度アトラスが前に出る。