それを受けた歌衣。
「刀シャキーン」とか言ってる場合じゃないんですよ?
しかし歌衣の手牌は幸いの対子がある。これは千羽が1枚切っていて、単騎にしか当たらない牌だ。
このあたりを打って回って、手牌が良くなればアガリに向かう方向で――
ゑ?
ゑゑ?
いけません! はいけませんお客様!
……失礼、取り乱しました。
一発までついて8000点の放銃。
落ち着いて考えると歌衣の打牌の意図もわかる。
自分は西を使ってホンイツが見える手牌で、鴨神の宣言牌が。
ダブルリーチというのは宣言牌が手牌に関連していることの方が少ない。
切りだからが特別危ないということではないのだ。
……いやそれでもはカチコミすぎだと思うのだが……
いや、これが歌衣の魅力なのだ。
ここまで豪快に笑顔でを打たれたら、きっとファンの視聴者も笑いながら見守ってくれているような気がする。
今回は豪快に撃沈した歌衣だが、この姿勢にファンは惹かれるのだ。
この打牌は、歌衣の神髄、漢気麻雀の心意気を見た気がした。
なんにせよ、これで鴨神の点数は7万点超え。
いよいよ優勝が近づいてきた。
東4局も軽快に捌いて局消化。
全速力でアトラス歌衣の親番を終わらせることに成功。
南1局は千羽が2000、4000のツモアガリで加点。
これも鴨神にとっては悪くない。
これでアキレス咲乃の親番が終わり、咲乃は厳しい立場に立たされた。
南2局
現状、ゼウスに1位を奪われた形になった歌衣はを引いてきて、切り。
手牌を完全にタンヤオにしきり、タンヤオチートイツの渡りも残した。
ドラの引き……!
タンヤオドラ4はリーチしてツモれば跳満から。
このリーチがもつれる。
歌衣のツモ番はあと1回になってしまった。
――しかし運命の歯車は、ここから動き出す。
咲乃の手牌。
ずっとテンパイさえすればカンして嶺上開花のボーナスを狙いにいくところだったが、残りツモ番が1回になってしまい、次巡仮にテンパイしてもハイテイ牌なので、その状態で咲乃はカンができない。
故のカン。
ここでテンパイすれば歌衣からの出アガリが期待できるが、テンパイできず。
「ちょっと待ってこれまずいな……」
誰よりも勝利に飢える麻雀AIの脳が危険信号を訴える。
カンが入ったことでハイテイがズレた。
今のままだと、ハイテイ牌が行く先は――歌衣メイカだ。
海底など偶然の産物でしかない。
このまま放っておいたとて、歌衣がツモる確率はたかが知れている。
だが、知っている。
鴨神にゅうは嫌というほど知っているのだ。
目の前に座るこの漢が起こしてきた奇跡を。