この大混戦に、公式放送も大混乱。
ボーナスもあり、ポイント2倍のこの最終戦は、条件の確認がとても難しい。
運命のオーラスは、1本場へ。
だが麻雀AIは冷静だった。
「これ捲られたな……」
公式放送でも混乱するこの状況を、麻雀AIは冷静に把握していた。
先制テンパイは咲乃。
待ちの、ドラ4ピンフテンパイ。
通常なら、喜んでアガりに向かうが、咲乃はもう優勝への条件がほとんどない。
これをアガって文句を言うような人間は、ここにはもちろん、視聴者にだってほとんどいないだろう。
それでも、咲乃は。
歌衣からのを見逃した。
もちろん賛否はあるだろう。けれど、咲乃は自分で考えて、このアガらずの答えを出した。
それに異を唱える彼女のファンは、きっといない。
を引き入れて、三色がついた。
これならば偶発役である一発や裏ドラが絡めば、役満まで見える。
役満賞があることも相まって、咲乃はここでリーチへ。
千羽も立場は同じ。
麻雀は4人でやるゲームだから。
ボーナスである先負を狙ってリーチした千羽の選択を、否定するファンはいない。
これを受けて困ったのは歌衣だ。
現状、ゼウスとの点差はごくわずか。
しかし、咲乃や千羽に振り込めば、かなり優勝は厳しくなる。
テンパイに行くにはが一番近いが、2人に通っていない上に新ドラだ。
どう考えても通常は打てる牌ではない。
歌衣も時間を全て使い切って思考に沈む。
そうして、歌衣が出した結論は。
打ち……!
歌衣は勝負に出た。
歌衣はオリて後悔するよりも、前に出て後悔する方を選んだ。
そうだ。歌衣メイカはそういう漢だ。
公式放送も大混乱。
とにかく歌衣が放銃すると優勝を逃す状況だけはわかっていることから、当然ここはオリに回るものだと思っていた。
公式放送を見ていた視聴者も、おそらく同じ気持であっただろう。
オリた方が、良いのではないかと。
しかし、歌衣は前に出た。
この時歌衣が、条件を正確に把握していたわけではない。
けれど。
オリて負けんのは、「だせえ」って、理由はそれだけで十分だ。
それを見て鴨神も動く。
をチーして形式テンパイ。
仮に歌衣がテンパイを入れて自分だけのノーテンは、アトラスと点差が開く。
ならば、前に出よう。
優勝のためにやれることは、全部やる。
「この戦いを終わらせたくねえ」
歌衣に最後のチャンス。
ツモ番は、もうこれしかない。
海底の奇跡を成し得た歌衣なら、テンパイくらいできたっていいじゃないか。
まだ、終わりたくない。