歓喜か絶望か
挑むは村上淳
一牌の後先に、
魂を燃やせ
文・後藤哲冶【金曜担当ライター】2023年1月20日
この日の第二試合が始まる前のチームポイントランキングをご覧いただきたい。
最下位の8位に沈む赤阪ドリブンズは、今年ファイナルに進出できなかった場合、規定により選手の強制入れ替えが発生する。
セミファイナルの通過ボーダーであるサクラナイツまでは、およそ450ポイント。
残り試合数を考えれば、容易な数字では決してない。
そんな中、先発を託されたのは今シーズン不調にあえぐ村上淳。
個人ポイントのマイナスは、250を超えた。
まさに、崖っぷちと表現するに一番適した状況。文字通り、背後には崖が迫っている。
麻雀という競技に、絶対はない。それでも、今日だけは絶対に勝ちたい。いや、勝たなければいけない。
そんな想いが村上の胸中にあったであろうことは想像に難くない。
1月20日 第2試合
東家 多井隆晴 (渋谷ABEMAS)
南家 滝沢和典 (KONAMI麻雀格闘倶楽部)
西家 村上淳 (赤阪ドリブンズ)
北家 小林剛 (U-NEXTPirates)
そんな村上の前に立ちはだかったのは、数十年という時間を麻雀プロとして共にしてきた盟友とも言える3人。
分かっているはずだ。村上の置かれている状況も。
それでも。いやだからこそ。
村上のためにできることは、この舞台で全力でぶつかることだと、誰に言われなくても全員が分かっている。
対局の開始を知らせる、ファンファーレが鳴り響いた。
東1局。
まず最初に仕掛けたのはやはり小林だった。
この形からのポン。狙いはピンズの染め手。
一般的な打ち手であればこの手はタンヤオ系への渡りもあるため、このポンからの発進はしにくい。
だが、小林はこの手はタンヤオにするよりも、ピンズで他家に圧をかけていった方が得だと判断した。
ポンから入れば周辺牌であるやは使いにくく副露できる可能性が上がり、ドラがのため他家目線でを持っている可能性を考慮させることもできる。
しかしそこにドラのを打ち出していったのが南家に座る滝沢。
手牌はタンヤオピンフのイーシャンテン。引きでのターツは採用したい上に、1巡分小林にを重ねる抽選を受けさせてしまう事の方が良くないと判断したか。
更に状況が動いたのは7巡目。
多井がこの絶好の良形からなんとマンズを晒してをチー。
辛すぎる選択に見えなくもない。メンゼンであれば安目が入ったとてリーチして12000のテンパイになるこの手を、安目2900にしてしまうのは消極的すぎるように感じなくもない。
だが多井は冷静に場の雰囲気を感じ取っていた。
ポンからホンイツに向かった小林。それに対してドラのを切っていた滝沢。
巡目に猶予はない。
それにチーから入れば高目で5800の打点がある。
これは多井隆晴という打ち手であれば、5800のリードは後の展開を確実に有利にできるという矜持かもしれない。
これを滝沢から捉える。2900のアガり。
滝沢もまた多井の仕掛けを見てとを入れ替えたが間に合わなかった。
静かな立ち上がりで東1局は1本場へ。
東1局1本場。
「村上の手牌をご覧ください」
解説の土田プロが、まだモニターが村上の配牌を映す前にそう言った。
ドラ3赤。形もリャンメンが2つで悪くない。第一ツモはタンヤオ牌ではなく動きにくさこそあるが雀頭候補という意味では良いツモだ。
次巡、絶好のを引いて一気に手牌が引き締まる。