16巡目。
白鳥からが出たがこれは鳴かない。安全牌が現状は足りない。
17巡目。
白鳥はが薄かったため厚く持っていたをアンコにして、打。
今度は仲林はチーと発した。
前巡と変わったことは、白鳥と滝沢にはかなり通しやすいを持ってきたこと、
そして白鳥の切りによって、4枚目のが切れるようになったことである。
ただを2枚切っただけでは、仲林がまるっきりノーテンなのが明らかになる。
安全牌が確保できた状況で、もう一つ仕掛けてテンパイに見せること、
それが正に目下のライバルである黒沢に施した最後の策略だった。
黒沢のあの悠々のイーシャンテンが、最終手番でやっとのテンパイ。
出ていく牌は、ドラのかダブルワンチャンスの。
は白鳥の現物でもあり、仲林にも切りやすい牌だ。
アガリも十分狙えるし、これを降りると一人ノーテンになるだろう。
もっともそれも、仲林の作った幻想なのだが──。
黒沢はを切り、滝沢が手牌を倒した。
どうだろう。
白鳥の手を読み、仕掛けを誘発したポン。
終盤にをトイツ落としするだけではなく、
全員の手牌構成が読める超終盤に、安全牌を残してのもう1フーロで黒沢を前に出させる。
オーラスの鍔迫り合いに自信がある──、この力強い言葉の理由が集約されたオーラスではないだろうか。
チームは連勝。
この月曜を皮切りにチーム成績は11222412と上々。
ついに5位に浮上し、いよいよボーダー争いに食い込んできた。
もしポンがなくて白鳥がメンゼンで進めていたら
ツモ
の手が仕上がっていた。
また結果論の蛇足ではあるが、黒沢も
ツモ
のテンパイ牌がすぐに飛び、結末は全く異なっていただろう。
何もできなかった、配牌が悪かった、ツモが噛み合わなかったと、
そんな風に逆境を嘆いた経験は、誰にでもある。
しかしこれだけの手牌の劣勢がありながら、トップを勝ち取った仲林の鋭意工夫と思考の持続には、畏敬の思いすら浮かぶ。
至高のオーソドックスプレイヤーである仲林の麻雀技術には、もう十分な安定感と信頼が確立されている。
そしてさらに秀でた部分として、どう転ぶかわからない最後の激しいトップ争いに絶対的な自信があるということは──、
追い上げるチームを支える、頼もしい推進力となるだろう。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki