優勝争いの最中で、4人が見せたそれぞれの『らしさ』【Mリーグ2022-23ファイナル観戦記5/18】担当記者:東川亮

結果は2人テンパイで流局。そこにいたのはやみくもに攻撃するだけの狂戦士ではなく、冷静に状況を判断して勝機をうかがう、したたかな女戦士だった。それがMリーグで5シーズン戦い続けてきた、今の高宮まりなのだ。

多井隆晴の、多井隆晴らしさ

決死のリーチが空ぶったものの、多井は自身の親番をつなぎとめることに成功していた。

点数こそ減らしていた多井だったが、それは全てツモやテンパイ料で削られたもので、放銃はなかった。東2局には亜樹からリーチを受けると、一発でつかんだ【3ピン】を打たず、すぐにテンパイを崩す選択。

その後、現物がなくなったところではダブルワンチャンスのロン牌【3ピン】ではなく、トイツの【7ピン】を選んで放銃回避。至るところで、持ち前の守備力を発揮していた。

だが、ラス目のオーラス親番となれば、守備力よりも攻撃を続ける姿勢が重要になる。真っすぐにテンパイへと突き進み、前局に引き続きシャンポン待ちで即リーチを敢行。瀬戸熊の追っかけリーチを受けたが流局となり、さらに親番を連荘する。

多井とて全知全能ではなく、できることに限界はある。だが、そのなかであらゆる手を尽くし配牌をもらう機会を増やせば、チャンスが訪れる確率も上がる。多井は耐えながら、そのときを待っていた。

そう、たとえばこんな手を。2メンツ完成し、ドラ【3マン】がトイツ。すぐにまとまりそう、そして打点もついてきそうなチャンス手。ここで攻めるために、多井は守備を徹底しているのだ。

ドラを暗刻にして、【1ソウ】【4ソウ】待ちリーチ。山には【1ソウ】が3枚残っていた。

多井を取材していると、彼はよくこんな言葉を口にする。

「自分の仕事は麻雀を打つことではなく、麻雀で勝つこと」

麻雀という運の要素が勝敗に大きく影響するゲームにおいて、必勝を求められる。その本当の意味は、重さは、もしかしたら多井にしか分からないのかもしれない。

Mリーグでは勝ち続けてきた多井だったが、チームを優勝に導くまでには至らなかった。かつては、最終戦後に控え室で嗚咽を漏らす姿すらあった。唯一無二の存在として、悔しい思いを、期待に応えられなかった過去を振り払う。

それを成すのは、今シーズンをおいて他にない。多井隆晴、逆襲の満貫ツモ。

多井はさらに加点し、最終的には高宮をかわして2着で試合を終えた。この結果、首位・ABEMASと2位・麻雀格闘倶楽部のポイント差は271.2まで広がり、ABEMASの初優勝はもはや秒読みといったところだろう。敵からすれば憎たらしく、味方からすれば頼もしいことこの上ない、そして誰もが強いと認める多井隆晴が、存分に多井隆晴らしさを発揮した試合だった。

二階堂亜樹の、二階堂亜樹らしさ

この試合を制したのは亜樹。
風林火山としては、ファイナル14戦目にしてやっとつかんだ初勝利だった。数字的なことだけで言えば、この勝利は風林火山3位浮上の可能性をつなぎ止めた、程度の意味合いしかない。
ただ、亜樹はもちろん当事者として勝てないチームの苦しみを味わってきていたし、それを応援するファンの苦しさも痛いほど分かっている。

亜樹は最後のポーズを、満面の笑みとともに決めた。たとえ目標には届かなかったとしても、見てくれる人、応援してくれるファンのために、勝ったときは笑顔で喜ぶ。それが、20年以上にわたって女性プロの第一人者として一線を走り続けてきた、二階堂亜樹らしさなのかもしれない。

5月19日の2試合を残し、ポイント状況はこのようになっている。このままABEMASが逃げ切るのか、それとも奇跡の逆転劇は起こるのか。2位・3位争いの決着は。全ては、最終日の戦いで決まる。

なお、Mリーグ最終日・5月19日の試合は、試合後に閉幕式を行う関係で、普段より2時間早い17時からの放送開始となっている。ぜひ、最後までMリーグをお楽しみいただきたい。

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