南4局2本場、山井がリーチ。待ちはカンと愚形、他に役もドラもない安手だが、着順が落ちるケースはほとんど考えられず、ツモや直撃で裏ドラが複数乗れば宮内を逆転できる。可能性はわずかだが、素点回復もあり、「かけておいたほうがマシ、いいことあるかも」くらいの感覚だろう。
形式テンパイを入れていた石橋は、少しでも被害を減らすべく、をチーして一発消し。しかし、それが、まさか。
山井、ツモ。
裏ドラが2枚乗って、満貫。山井、逆転トップ。
石橋の鳴きによってツモがずれ、山井の逆転が生まれたのは事実だ。だが、石橋は鳴くべき牌を鳴いたに過ぎず、そこにがあることなんて誰にも分からない。数々の不運に見舞われ、敗退が濃厚になってしまっていた石橋だったが、この局面はそんな彼を象徴するようなワンシーンとなってしまった。
■4回戦
最終戦は、全員が2万点台でオーラスを迎える接戦となっていた。先制テンパイは山井、ドラのを暗刻にしてリーチをかける。ただ、山井は菅原からの直撃以外での満貫だと、4回戦のトップにはなるものの、トータルスコアで菅原を逆転するには至らない。ツモって一発か裏、というのが狙いだ。
直後、愚形残りの1シャンテンだった菅原は、全くの無スジであるをつかんで手が止まった。
菅原は、麻雀に入り込んでいるときに、困ったような表情をする。もちろん、悩むこともおびえていることもあるかもしれない。だがここは、麻雀に人生をささげてきたと言っても過言ではない彼女が、追い求める舞台にたどり着くための戦場なのだ。
欲しいものは、戦わなければつかみ取れない。そしてそれが、今、このとき。は山井への、そして自身の行く手を阻む高い壁への、宣戦布告だったのかもしれない。
テンパイし、菅原は迷いなくを横に曲げた。野生の獣は一瞬の逡巡で命を落とす。菅原は獣の闘争本能で迷いを振り払った。
山井は石橋の切ったを見逃し、ツモに懸けた。そしてそこにあった牌は、菅原のロン牌、だった。
この選考会がどのようなフィナーレを迎えるのかは、まだ誰にも分からない。ただ、獣のごとき闘争心を見せた菅原千瑛という打ち手にBEAST Japanextに加わる資格があることは、もはや疑いようもない。
大敗という結果に終わった石橋だが、この日はあまりにもめくり合いに敗れ、牌に恵まれることが少なかった。日が違えば違った結果もあっただろうが、これが勝負の世界の厳しさである。
セミファイナルは、内田みこ・浅井堂岐・宮内こずえ・山井弘の組み合わせで、6月10日(土)12時より行われる。上位2名がファイナルに進み、2名が敗れるサバイバルマッチ。そこには麻雀におけるあらゆる魅力が詰まっている。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。