だった。
優はこう解説する。
「対面の萩原さんがドラのを切っていて臨戦態勢だったので守備駒としては取っておきたかった」
「それに、リーチに一番近いのは切りじゃないですか?」
私ははっとした。
一見柔軟に見える切りだが、いつでもできると思っていてなかなかできないのが雀頭である。
一方でを切るとツモこそロスになってしまうが、の部分にかをツモったらソウズ2メンツのイーシャンテン、が伸びたらソウズ1メンツにしてリャンメン2つのイーシャンテン、と手牌が安定する。
3者がテンパイを入れる中で
優が構想通りのアガリを拾う。
リーチ・ツモ・ピンフ。五臓六腑に染み渡る1300は1500オール。
とりあえず、ではなくその瞬間の正解を考え続ける優の導き出した切りは、私には眩しく光り輝いていたのだ。
誹謗中傷
抜け出しをはかる優をあっさりかわしていったのが瑠美だった。
東3局、親番を持ってきた瑠美が
リーチ・ツモ・ドラ・赤・裏の4000オール。
返す刀で
ダブドラ1の9600は9900をアガリ、突き放しに成功する。
何かと話題になるABEMAのコメント欄。
ここに関わらず、誹謗中傷が昨今では問題になっている。
私はABEMAのコメント欄を一切見ないし、そこに誹謗中傷を書いて何の得になるのかと思っている派ではある。
メリットがZEROな上、デメリットは大きい(見る人を不快にさせる。訴えられる可能性がある。)のになぜ書くのか、と疑問に思っているまともな人も多いだろう。
それもタイミングと環境の問題だと思う。もし自分の麻雀に自信があった若い頃にABEMAが存在していたら、自分の選択と違う選択を見つけては揚げ足を取るように指摘し、悦に浸っていたかもしれない。
誹謗中傷コメントの裏には、承認欲求だったり、ストレス解消だったり、いろんな感情がうず巻いている。
タイミングと環境が書かせているんだろうな… と思えるようになってからは、選手に対する誹謗中傷どころか、自分に対する誹謗中傷(私の書く観戦記1つとっても文句を言う人はいる)もそこまで気にならなくなった。
そもそもそういうコメントを遠ざけるようになった(ABEMAのコメント欄を見ない、Xで誹謗中傷を見かけたらミュートする)し、もちろん自分から人を傷つけることもしない。
さてなんでこんな話になったかと言うと、選手の実力や思考が見えづらい上、運の要素が高い麻雀界と誹謗中傷の相性は非常に悪いからだ。
毎年、矛先が入れ替わっている気がする。
初年度は萩原が、以降は新加入の女性が批判の対象になりがちで、丸山、和久津、岡田… 最近ではBEASTの中田と菅原がその役を担っている気がする。
瑠美の一年目も批判が殺到していた印象がある。
あれ、そういえば最近はあまり聞かないな。
矛先が変わったからという理由も十分にあるが、実際にMリーグに順応してきたというのもあると思う。
たとえば優がペンの5800をアガった局
瑠美は1巡目にこのを仕掛けていた。
形はいいがドラも雀頭も無い手牌なので、瑠美が仕掛けるとはかなり意外だった。
またさきほどの4000オールもカンで躊躇なく追っかけリーチを打ったし、この半荘通じてかなりアグレッシブで、存在感が突き抜けていた。
瑠美は覚えていないだろうが、私は20年以上前に瑠美と中国麻雀を打ったことがある。
中国麻雀は81種類の役がある。(日本は30種類前後)
他にもドラや王牌がなかったり、フリテンがなかったりと日本の麻雀とは全くの別物で、若かりし頃の私は(こんなん俺の打ちたい麻雀じゃねぇ!)とふてくされていたが、瑠美は新しいおもちゃを与えられたように目を輝かせていた。
そして1時間経つ頃には瑠美が「これ一色三歩高ですよね!」とアガリまくっていた記憶がある。
順応性がめちゃくちゃ高いのだと思う。
誰も気づかぬうちに、しれっとMの海に馴染み、そして楽しんでいる。
2本場
瑠美は
をツモってきた。を切ると678・789のどちらの三色も追える形だ。
当然瑠美は…
あれ、を切った?!
なるほど、場を見るとが3枚切れている。三色になるとしたら789より678だ。
それでも赤なし麻雀だったらを切っていたのかもしれない。
この手牌で大事なのは三色よりもスピード。の4枚ロスは逃せない。
そう考える瑠美がツモってきたのは…