それぞれの負けられない
理由がぶつかる卓上で
岡田紗佳が魅せた集大成とは
文・ZERO / 沖中祐也【火曜担当ライター】2024年5月14日
負けられない理由がある。
という表現は、あまりに使い古されていて陳腐に感じるだろうか。
あの勝又がツモに力を込め、亜樹の裏ドラをめくる手が震える。
園田の打牌が荒ぶり、たろうが手牌をクラッシュ。
ベテランといっても差し支えないプレイヤーたちの、揺れる気持ちが卓上に溢れ出す。
ああ、これがファイナルなのだ。
第1試合
南家:仲林圭
U-NEXTパイレーツ
1位 +395.2pt
西家:岡田紗佳
KADOKAWAサクラナイツ
3位 +73.4pt
実況:松嶋桃
解説:河野直也
ラス前を迎えるまでは、完全に仲林のペースだった。
東1局に500/1000、東3局に2600をアガった仲林は、東4局に
カン待ちのテンパイから仕掛けている2人に危険なを引くとを打って回った。
これはだけではなくその周りの牌をキャッチできることと、→と比較的安全に落としていけることが大きいだろう。
さらに南2局の親番では
このピンフテンパイをダマテンに構える。
勝又(上家)がドラを切ってきて臨戦態勢、自身の待ちであるがその勝又の現物であることも大きいか。
首位を走るPiratesの現状のプランとしては
大過なく一戦一戦を消化していくことだ。
そうすれば自然と優勝は近づいてくる。
爆発力を求めるなら戦闘民族の優やゴリラ瑞原が適しているが、安定感を求めるなら仲林が随一である。
負けられない理由… という表現は陳腐かもしれない。
誰だって負けたくはないし、16人いたら16つの負けられない理由がそれぞれにあるからだ。
仲林の負けられない理由は──
今週の金曜日であるファイナルの最終日には、PV(パブリックビューイング)が開催される。
仲林はPVのチケットを両親に送った。
両親の年齢は80を超え、とくに父親の方は数年前に脳卒中で倒れ、そういう場所に赴けるのは今年が最後になる可能性が高いらしい。
この話は、何年ぶりかにそんな両親とご飯を食べに行ったときのこと。
「高校はどうだ?」
記憶が曖昧になっている父親が仲林に聞く。
仲林が、もう社会人でMリーガーになったことを伝えると、厳格で、麻雀けしからん星人の父親はバカモノ!と一喝。
慌ててMリーグというプロリーグがあること、そしてUSENの子会社であるチームに所属していることを伝えると、父親は納得した。
ふと父親が言う。
「俺… 同じことを何回も聞いているだろう?」
と。記憶が飛んでいることには自覚があったのだ。