『最低でもトップ2回、2着1回』
それが、今日のグラディウスに課された、あまりにも厳しすぎるファイナル通過条件だった。
3試合目、大将を務めるルイスが、監督渋川に聞いた
「一人でも、ラスになったらどうなるんですか?」
「あ、終わりですね」
あまりにも残酷に、その事実は突きつけられた。
けれど渋川も、なにも意地悪がしたくてこんなことを言っているわけではない。しっかりと現状を把握したうえで、選手に全力で挑んで欲しいから正直に答えているに過ぎないのだ。
グラディウス最初の出場選手は、鈴木勝。
気楽に打てと言われても、自分がラスを引いた瞬間に、この後2人の試合が無為なものになってしまうと分かっていればこそ、その身に襲い掛かるプレッシャーは並大抵ではない。
「ここでトップとらんかったらいつトップとるって感じなんで」
勝が、試合前に気合を入れた。
目を閉じれば、いつだって思い出せる。
今年、苦しかったいくつもの場面。
もっと自分が上手く麻雀が打てれば。
そう悔やんで、夜遅くまで段位戦に打ち込んだ日もあった。
今日のグラディウスファイナル通過は、ほとんど奇跡に近い。
それでも、その奇跡のバトンを、自分がいきなり途絶えさせるわけにはいかない。
第一走者を任された鈴木勝が――今ゆっくりとスタートラインに立った。
セミファイナル 第1試合
東家 鈴木勝 (チームグラディウス)
南家 風見くく(チームアトラス)
西家 空星きらめ(チームゼウス)
北家 龍惺ろたん(チームヘラクレス)
先にセミファイナルのシステムを解説しておく。
レギュラーシーズンのスコアを半分にして、3試合を行う。
2試合目に戦う選手は1試合目の結果を知らず、同様に、3試合目に戦う選手は1、2試合目の試合の結果を知ることはできない。
そして3試合を終えて、最下位のチームが敗退、上位3チームがファイナルへ進出。
セミファイナルのスコアは、ファイナルには持ち越されない。
以上が概要だ。とにかく、敗退1チームを決める日だと思ってもらって、問題ない。
さあ、対局内容に入ろう。
東1局
最下位でレギュラーシーズンを終えたグラディウスは、今日全ての試合で東家に座ることが決まっている。
いきなり、簡単にはオリられない親番がやってきた。
もうひとり、絶対にトップが欲しい選手が、先制のリーチを打った。
アトラスの風見くく。
初出場した去年からここまで、一度もトップがとれていないのは、全選手の中で彼だけだ。
ずっと応援してくれるチームメイトやファンのためにも、トップが欲しい気持ちは、人一倍大きい。
「まだ全然足りないので、落ち着きます」
第1試合最初のアガリは、風見くくのリーチツモドラ1、1000、2000。
今年に入ってリーチが少しずつ実ってくれているのが、せめてもの救いだ。
「まぁ、親はまだあと一回、あるから……! 」
悔し気にそのアガリを見届けた、勝。
早くも、2回しか訪れない親番の権利が終わってしまった。
それでも、諦める理由には到底ならない。
東2局
ヘラクレスの龍惺ろたんにチートイツドラドラ赤のテンパイが入る。
ダマでも十分に打点があるため、これをダマテンに構えた。
一方、ゼウスの空星にも良い手が入っていた。を引き入れてイーペーコー完成は僥倖。
と待ちも良く、当然のようにリーチに打って出る。