ヤオチュウ牌が
1・2・3……………8・9・10。
それも被りなし10種10枚。
そう、“国士無双”という特殊役であった。
親の16,000オールまでほぼリャンシャンテンである。
そのバラバラ過ぎる手牌を愛おしく見つめる新榮。
すると、意を決したかのように
第1打目にを選んだ。
それも一番枚数の多いピンズ…つまりホンイツの天秤は掛けずに、それは“国士無双”と心中する意思表示でもあった。
システム上、トップしか意味のないこの決勝戦。
残り半周を残して自身は、三者とそこそこ点差を離したトップ目。
更に親の役満という魔法の言葉が目に見えて手の届く範囲に収まっている。
流石に麻雀という性質上、それが成就したらほぼ優勝を意味していた。
(勝てたら良いな…勝ちたい…勝てるかも…)
徐々に新榮の心臓を鷲掴みにする今まで経験した事のない見えないプレッシャーが無意識に襲っていた。
そして、その見えない圧が形となって現れる事に。
松嶋の3巡目リーチ。
そして、
悪魔の道標に導かれるように新榮の河にはが置かれた。
それは松嶋へ8,000の放銃を意味している。
その時の新榮の何かを得たような表情をカメラマンはしっかりと捉えていた。
決して攻める事が間違っていたとは言えない。
それでも、新榮は自身の素直な思いを対局後に発信していた。
“経験不足だったと”
負けた直後に、このような反省の弁は思っていても中々言えない。
それでも語る事のできる強さ。
今日の経験を糧にもっともっと強くなってこの舞台に帰って来るだろうと予想する人は私だけではなかっただろう。
松嶋桃の中に存在するリトル松嶋桃
大きな直撃もあり、微差ながらトップ目に躍り出た松嶋。
とは言っても自身はオーラスの親番を控えており、緊張感の走る最終局面南3局を迎えていた。
をポンしたらリャンメン×リャンメンのイーシャンテンとそこそこのスピード感。ドラ受けもあり、2,000点の直撃も考慮するとを鳴く選択肢も十分にあった。
それでも、相川から切られたに
松嶋は見る気もせず悠々とスルーの選択肢を選ぶと
その想いに応えるかのようにツモでピンフルートを辿る。
実はこの時の思考を対局後に、力強い眼差しで語っていた。
松嶋
「一つの選択が、すごく微妙な選択が勝敗を分けるんだなって体感は実況をしてて分かっていたので。それにはオーラスまでにこの局で新榮ちゃんと4,000点差以上を付けるんだって。大事なのは南3局なんだって脳内で実況しながらやってました。」
その松嶋の中に存在する“実況・松嶋”の言葉が言霊になるように、を引き入れると静かに牌を横に曲げた。
そして
渾身の700・1,300で新榮にオーラス4,800点差の条件を課すと
南4局