攻撃は最大の防御なり
小林剛、アガリがもたらす絶対の守備力
文・東川亮【火曜担当ライター】2024年10月15日
「攻撃は最大の防御なり」という言葉がある。
自分が攻めている瞬間は相手の攻撃を受けることがない、それこそが最大の守りである、という意味で使われることが多く、現代であればサッカーやバスケットなど、同じフィールドで戦うボールゲームがイメージしやすいだろうか。
ただ、この言葉はもしかしたら、麻雀に当てはめるのがよりふさわしいかもしれない。
麻雀において、相手の攻撃に対して守備に回れば、最良の結果が横移動による無失点、それ以外はツモられても流局しても必ず失点する。
逆に、1000点だろうが自分がアガりさえすれば、たとえ相手が役満テンパイだろうが失点することはない。
打点にこだわらず、相手よりも早くアガって失点を防ぐ。
その優位性をかねてから提唱し、実践し続けているのが、U-NEXT Piratesの船長・小林剛である。
第1試合
東家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)
西家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:小林剛(U-NEXT Pirates)
東4局1本場。
小林の手にはおあつらえ向きにがトイツ、鳴ければすんなりアガリまでたどり着けそうな手だ。を切ればリャンメン二つの1シャンテンになるが、ここは3枚切れを見てリャンメンターツ外し。早々に鳴くことを前提にしたような形で手を組んでいく。
もちろん、自力で暗刻にできるならば、それが理想。リーチ赤で打点は十分、大量加点のチャンスとあらば、堂々と攻めていく。
反撃に出た菅原からアガリ牌が出て、7700は8000の出アガリ。
その後は菅原と渋川がアガリ合う展開のなかで、南2局1本場ではチートイツを早々に見切って手を進めると、鳴きたいが出る前に門前でテンパイしてリーチ。
渋川から2600は2900のアガリで、寿人をかわしてトップ目に立った。
南3局、小林が早速ポンから仕掛けていく。この局の命題は、2番手・寿人の親を流すこと。ラス親が自分なので、局を流せればトップ率はかなり高くなり、少なくとも2着以上は堅そう。自身が先手を取れそうとなれば、アガリに向かってまっしぐらだ。
ポン、チーと軽快に鳴いてテンパイ。
次巡、を空切りする。テンパイ打牌より後に手出しを入れることで、最終手出しの周りの牌が待ちになっているように見せるという、細かいながらも重要なテクニックだ。たとえばのカン待ちにを引いての待ちなどは、十分読みの範囲に入ってくる。
1シャンテンの菅原がを切って、2000の出アガリ。小林はトップ目でオーラスの親番を迎える。
ただし寿人との点差3900は、流局時のテンパイノーテンの差でまくられることもあり得る。小林にとっては、やや難しい立ち回りを要求される局となった。
与えられた材料はこちら。アガリに行きたい場面であればかなり良さげな手だが、放銃しないよう守備を考えながらとなると、少々バランスが難しい。
2シャンテンで2枚切れのを残し、切り。守備駒を残しつつ進行する。
だが、前巡にを引いたところで瞬間的に目いっぱいに構えると、直後にポン。手牌を短くしてでも手を進め、アガリを取りに行く。
もちろんリスクはある。黙って見ていれば、渋川や菅原のラス回避によるアガリでトップが確定するかもしれないが、そう都合良く物事が進むとも限らない。また、誰かから攻められたときに、この手で守り切るのは少々厳しい。
だからこそ、小林は前に出た。自分のアガリで相手のアガリをつぶしてしまえば、ゲームは続くものの、この局で逆転される可能性はなくなる。また、自身が加点をすることで、相手にさらなる厳しい条件を突きつけ、特に渋川と菅原に関してはトップを諦めるアガリの方向へ誘導することにもつながるだろう。
そして、ここからのバランスが秀逸。2枚切れのを引いたところでを切って少し手狭に構える。守備力を担保しつつ、後にカン待ちになったときの布石を打ったような一打。
何とか、相手に先んじてテンパイを入れることができた。
そこに、菅原のリーチがかかる。現物はゼロ、内心はひやひやだったはずだ。
それでも、小林はこうして勝ってきた。逆転手の1シャンテンだった渋川からを捉え、2900のアガリ。菅原の出したリーチ棒も加えてリードを広げた。このアガリ、前に出ていたからこそ生まれたものであり、最初から守備前提で構えていたらここで局は終わらず、ピンチが続いていただろう。