『ラッキーでした─』 悪夢のような試合を終え、多井隆晴は言った【Mリーグ2024-25観戦記 4/7 第2試合】担当記者 #東川亮

そこに、太が立ちはだかる。

2つ仕掛けているところに、多井から【5ソウ】をチーして【7ソウ】【西】のシャンポン待ちテンパイ。

多井のリーチの前の、【7ソウ】【7ソウ】【8ソウ】【9ソウ】からの【7ソウ】チーが秀逸。【赤5ピン】【4ピン】をくっつけての2翻はホンイツの2翻と同じ価値、ならばホンイツにしたほうがいい形が残りやすいし、鳴きも使いやすい。

シャンポンテンパイから、【6ソウ】を引けたならリャンメンにチェンジ、【7ソウ】は多井の現物で、待ちの【5ソウ】【8ソウ】も現物待ちだ。

さらに、自分がポンしている【中】を引き、少考の末に加カン。

もちろんリスクはあるが、そもそも多井にアガられたらラス目でオーラス、ならば自分のツモ番を増やしてアガリ率を高める、攻撃的な選択。

このカンでめくれたドラが【7ソウ】、太に2枚乗って満貫に。

多井は劣勢の中で、何とかポイントを持ち帰ろうとあがいていた。しかし時として、麻雀は残酷だ。

太へ8000の放銃。

オーラスを迎え、3着目とすら2万点近い差がついてしまった。

セミファイナルはまだ初日、先があるとは言え、2ラススタートはおよそ考え得る最悪の結果。

ABEMASファンにとっては目を覆いたくなるような展開続きで、どう見ても多井はツイていない。

それでも多井は試合後に、「ラッキーだった」と語ったのだ。

それは、この後の展開を指しての言葉だった。

南4局、太は2800点差の茅森をまくりにいく。【赤5マン】を引いて打点がアップし、【白】を鳴ければ条件クリア、鳴けなくてもツモか直撃で逆転というところまで手が育った。

ただ、ドラの【北】を重ねてもOKということで、ここはドラを残す。

【7マン】をチーして1シャンテン。

だが、ここでもドラを残した。【北】はドラだから危険ということもあるが、【5マン】はさまざまなパターンに当たりうる牌ということで、先に逃がす。重ねてもいいし、北家の仲林にドラを鳴かせるなどもさせたくない。

多井から【8ピン】をポンできてテンパイ、【北】切り。これでツモ直のテンパイ─

「ロン」

茅森の声が響いた。

チートイツドラドラ赤、12000。茅森は前巡に【北】待ちのテンパイを入れていたのだった。

リーチをせずともツモればハネ満、出アガリでも十分高打点ということでのダマテン。もしリーチをしていたら、太はこの【北】を打っていたか。茅森の好判断で、太は思わぬ失点を喫してしまう。

だが、それでも太の優位は変わらない。

次局はテンパイ一番乗り、タンヤオで静かに3着を持ち帰ろうとする。

そこに多井がリーチと打って出た。手の内は赤赤、ツモか直撃で太を逆転できる勝負手。

リーチの一発目、太のツモは【7ソウ】。多井のリーチは条件を満たしていることが濃厚。自身はテンパイでアガりきってしまえば逃げきりだが、オリたら勝敗を委ねることになる。オリてアガリを逃し、その後にツモられるなんてことがあれば最悪だ。

多井は【5ソウ】ツモ切りのあとに【7ピン】【8ピン】と手出ししてのリーチ。【7ソウ】がどのくらいの確率で当たるのか。

巡目も深く、オリも選択肢にあったかもしれない。しかし太は、【7ソウ】を押した。

「ロン」

声を発したのはまたも、対面の茅森。

【南】ドラ赤、7700は8000。

いつも通りの押しっぷりが、ここは裏目に出た。

これで太は、2局で茅森に2万点を放銃。

多井もリーチ棒を出していたが、持ち点はなんと太と同点となった。こういうことがあるのも、また麻雀だ。

最後はアガリトップの仲林が、自身のアガリで試合を決着させる。多井は順位点で40ポイントを失うはずが、最終的には同点3着、順位点は太とマイナス30ずつ分け合うこととなった。加点をせずとも、あの絶望的な状況から10ポイントを得した、ということだ。

「ポジティブに行きます、暗くなってもしょうがないので。今日はラッキーでした!」

あまりにも悲惨な展開となった一戦で、多井は最後に訪れた幸運を好意的に受け止め、前を向いた。

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