ルーティンを重んじる瀬戸熊直樹、会心のリカバリー【Mリーグ2025-26 レギュラーシーズン 観戦記 9/23 第2試合】担当記者 カイエ

リーチ・一発・ドラ2の8000点を支払った元太は、局後に反省を口にした。あそこで間違っていなければトップまであった、と。
しかし、それまでの展開や点棒状況から、このように打つのは、まさに「麻雀がそうさせた」必然だったようにも思うのだ。
ラス目でなければ、スリムにしていたかもしれない。
前回登板で自身が4着を引いていなければ。ディフェンディングチャンピオンがMリーグ初の開幕から4ラスという状況でなければ。また違う心持ちだったかもしれない。

ちなみに「麻雀がそうさせた」というのは、わたしが好きな竹内元太の名言だ。
第48期最高位決定戦の15回戦目に、ダブリー・一発・ツモ・裏3という、どえらいアガリを決めた竹内最高位(当時)の、試合後のインタビュー。

「ダブリー、あれ一瞬ダマテンにしようと思ったんですけど危なかったですね。流れ的にはアガれないかと思ったんですよ。その前の自信あるリーチが空振りしまくってたんで」

「だけど、麻雀だからしょうがねえってリーチしたら、あんなんなりましたね」

「僕はリーチしないんですけど、麻雀がリーチさせたって感じですね」

これを聞いたとき「此奴はタッパに恥じぬ大物だ」との感をいっそう強くしたものだった。
今回の麻雀は、悪い目の方に「そうさせた」。
だからもとより元太は、すぐに切り替えているだろう。醍醐に怒られるのを恐れて、楽屋には戻らない「直帰宣言」をしたのも大物の風格だ。いたずらっこのような無邪気さと愛嬌で、必ず爪痕を残してくる。今シーズンも期待していいだろう。ただ1戦目出場の方が勝利のルーティンが確立している可能性はあるが。

さて、コンパクトと謳った試合を長々と記してきて、煩雑さが危ぶまれる今日この頃ではあるが、この観戦記にピリオドを打つためには、オーラスについても記さねば画竜点睛を欠く。元太のハネ満ツモ条件による同点3着。中田と仲林の2着争いが、焦点となっていた。

南4局

局面はアガリで2着キープの中田が、鳴いての三色を目指したところ。
【3ピン】に続いて、上家のライバル仲林から【2マン】が出た。チーして片アガリ【1ソウ】待ちテンパイだが、どう鳴くか?

おっと!
一瞬、牌山に手を伸ばしかけた中田だったが思いとどまり、

【1マン】【2マン】【3マン】ではなく【2マン】【3マン】【4マン】でチー。
この判断は難しかった。
前者の形で鳴くと、三色がわりとはっきりし、瀬戸熊からのアシストも期待できるかもしれない。もうひとつのメリットは、手に【2マン】【3マン】【4マン】と残しておくことで、のちの瀬戸熊や仲林からのリーチの際の危険牌候補でもある【5マン】を、スライドで吸収できる選択肢を持てることだ。【赤5マン】もまだ見えていない。
対して後者の形で鳴くと、1・2・3の三色がぼやける。すると自風の【北】や、場風の【南】バック・それら役牌暗刻の可能性を読ませることができる。実際、仲林の読みからは三色が抜けていたのだった。

【2マン】【3マン】【4マン】でチーをした中田。鳴き忘れかけたのは、緊張からか過集中からか。
まだまだ打ち慣れていないというのも要因のひとつかと思う。

直後、元太からリーチが入るが、着アップには一発や裏ドラなどの偶発役が必要。
ここで仲林の手に【1ソウ】がピヨピヨと降り立つ。全体牌図はこうだ。

このとき仲林は、主に元太のリーチに【1ソウ】が通るかについて読みを入れていたのだという。4巡目に【3ソウ】が切られているため、ラス目で真っすぐアガりに来そうな元太には比較的、通りやすそうな牌ではある。だが、間違っても満貫以上は打てない。【9ソウ】【8ソウ】の間隔切りで、元太の手の内にはドラの【6ソウ】もありそうだ。結果は?

えっ、なに、何の表情だ?
どうなった?

倒牌したのは中田だった。鳴いての三色のみで1000点(+リーチ棒)の横移動。
これにより、中田は着キープ。今期の初陣を、歴戦の猛者に囲まれながらも、値千金の2着で飾った。

実力トップクラスと名高い仲林もまた、局後の回顧で爪痕を残してくれた。

あの怪訝な表情の内実に迫りたい方は、ぜひ仲林選手のポストを追ってみてほしい。深い読みに裏打ちされた【1ソウ】切りだと分かる。
中田のチーの選択が、その読みを狂わせた。あるいは鳴き忘れ未遂の挙動も、読む材料の一端を担っていたかもしれない。ただ仲林は、読みを外されたと中田を讃えた。
同じフィールドで闘うプロ同士であり、敵であり、仲間だ。
中田へのリスペクトに、プロの矜持を見た。

局後のインタビューで爪痕を残したのは(安定したトップで充分に残したのだが)、瀬戸熊も同じだ。対局の回顧もそこそこにケーキの話を始める。
雷電、いっつも食べ物の話、しとるな。

瀬戸熊直樹は、ルーティンを重んじる。
Mリーグスタジオへは、ひとつ前の駅で降りて、歩いて向かう。
試合前の食事は、必ずパスタ。
入場時に、頬を叩く。化粧水のペチペチパッティングさながらに。

勝利のRMOポーズのあと、両手でバイバイをする。

ちなみに冒頭のサムネ画像は、カメラが切り替わったことに気づかずに手を振り続ける瀬戸熊のお茶目な姿だ。これもまた爪痕。新リポーターの木下遥が、ジェスチャーでカメラ位置をアシストすると、瀬戸熊の「あ、向こう?」というカメラ目線の断末魔を残して、そのままCMに入ったのだった。

ところで、筆者にはひとつ、気になっていることがある。
今シーズンから2局同時開催に対応するため、Mリーグスタジオが改装された。それに伴い、選手の前室が、対局後インタビューと同じ場所になった。
恐らくはスポンサーの背景LEDが回転して「酔う」という視聴者の意見を受けてであろう、フロム・ソフトウェアのエルデンリングナイトレインのアップデート対応のような迅速さで回転を無くした、あの空間だ。
瀬戸熊の、勝負に臨むルーティンといえば、その前室=控室での、牌を用いた精神統一が夙に有名だ。

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