チームどころか、いまやMリーガー最年長者でもある瀬戸熊直樹は、言わずと知れた熱い漢だ。
麻雀に殉じ、卓上で死ぬ覚悟を持つ。
「命がけというか、この一戦が終わったら倒れてもいいぐらいの感じで打つ時に、いい結果が出ていると思う」
卓上に溢れ出る気魄と闘志。その迫力とオーラは、間違いなくMリーガー随一だろう。
しかし、そうした時に悲愴とも思える決意とは裏腹に、この日の瀬戸熊に気負いはなかったように見えた。時折見せていた手の震えも、この日は無かったように見受けられた。むしろ落ち着き払っていた様子だったし、牌や展開に恵まれていたこともあり、その進行にも安定感があった。
もちろん、まだまだ闘いは最序盤。必要以上に気負う必要はない。何より今シーズン、雷電はレギュレーション=選手の強制入れ替えのことを考えずに済む。
Mリーグも8年目だが、思えばチームからの選手放出を経験していないのは、渋谷ABEMASと雷電のみ。両チームにファンが多い一因でもあるだろう。
局面に話を戻そう。
を鳴き、首尾よく
を縦に引く。瀬戸熊の構想に、牌も応えていく。

待ちは5山だ。

これを難なくツモって、・ドラ2・赤の2000・4000でトップを固める。
南2局は中田の7巡目リーチに仲林が三面張で追っかけるも、

マンズ待ち対決は、リャンメンの中田の方が枚数1枚有利で、リーチ・ツモ・裏1の1000・2000。今期の初アガリを決め、2番手に浮上。
南3局
そして半荘最大のハイライト。
配牌は親の中田が良かったが、

このあとドラのを引くも、以降は全く有効牌が来ず、苦しい展開。
対戦カードが発表された時点での個人的な注目は、4人中唯一、今期初登板となるBEAsT Xの中田花奈だった。
個人最下位の辛酸を舐めた昨シーズン。チームは2年連続レギュラーシーズン敗退のレギュレーションに抵触し、ドラ1の猿川真寿とドラ2の菅原千瑛が去ることになった。
にも関わらず、最も成績が悪かった自分は残ってしまった。
多くの批判に晒されただろう。
計り知れない葛藤があったに違いない。
雪辱を期す今シーズンは、自らチームのキーマンに立候補し「わたしが変わらなければ」と強く決意を述べた。
中途半端はやめて「行くところは行く、引くところは引く」のメリハリを大切に。
そのテーマは、この半荘でも随所に見られた。
そんな中田の手が伸びあぐねている間に、ラス目の元太の手が育っていく。

567の三色が見えるイーシャンテン。絶好手だ。
平面何切るなら、端に近いの対子落としで良さそうだが、

実戦はあくまで立体。
3者の捨て牌を精査し、安全度でか
の対子を落としたい。
親の中田と仲林には、安全度比較で<
。
瀬戸熊には当然、現物の>
となる。
速度感は、ペン外しで3着争いのライバル、仲林にあるだろうか。
は筋だが、
は危険な裏筋。
親の中田は4巡目にをツモ切っており、ワンチャンスの
もかなり安全に見える。
一長一短。誰に備えるか。難しい。
元太の決断は、

の方の対子落としとした。
これが分岐点のひとつ目。
そして次巡、

2巡前に上家から切られ、声がかからなかった安全牌候補のを持ってくる。
切りで形を決めるのが巡目的にも安全そうだが、
リャンメン+リャンメンのイーシャンテンの片方、は場に4枚切れ。直前に
も逃がされ、味が悪い。
を残せば、
の縦引きで、強い
のリャンメンに移行できる。
ラス目のラス前で、ハネ満・倍満までみえる超・勝負手。ここが2つ目の分岐点だった。

配牌は4人の中で最も悪かった瀬戸熊が、有効牌をズバズバ引き待ちでリーチ。ドラ
内包の、高めイーペーコーで満貫級のダメ押し手だ。
ん? 待ちのって…
それは、わずか数秒後のことだった。

This is 麻雀。
前巡にを敢えて安全牌と入れ替えなかったのは、まさにこの
の少なさの故だった。その薄い方のリャンメンが先に埋まり、高め三色の勝負手が、1牌のツモをも許されずに宣言牌で打ち取られる。ケアのために広げていた1牌が、たった1巡で咎められるかたちとなり、それが一発放銃での満貫。一牌の後先。牌の織り成り。
これぞ麻雀だが、残酷で無慈悲なのもまた事実。