茅森早香、
闇に潜んで
敵を討つハンター
文・東川亮【代打ライター】2022年11月14日
Mリーグではかつて「平均打点」を個人賞として表彰していた。2年目以降は表彰対象が「最高スコア」に変更されたため、このタイトルを獲得したことがあるのはMリーグでたった一人。
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「打点女王」こと、茅森早香である。
茅森は、「1日1ハネ(満)」を掲げるほど高打点を意識した手組みをする打ち手であり、実際に昨シーズンの平均打点は8084点、子の満貫を超えている。だが、彼女はやみくもに高い手ばかりを狙っているわけではないのだ。
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第2試合
東家:茅森早香(セガサミーフェニックス)
南家:萩原聖人(TEAM雷電)
西家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)
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放銃で親番を落とした東2局、茅森に先制テンパイが入る。待ち取りをか
で選べる形。
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茅森は待ちでリーチをかけた。見た目から引き算した枚数では、どちらも5枚残り。萩原・渋川が1枚もピンズを切っていない、あまり情報のない状況なら、確実に1枚ある
を狙いにいった方が打点的にも見合う、という判断だろうか。
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実際、この段階では全員がを使ったターツを持っており、
待ちは
が2枚だけ。対して
はそれぞれ1枚ずつ、全部で3枚あった。
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打点女王なら、ツモるのは高目。リーチツモ赤、裏ドラは乗らずとも2000-4000のアガリで、すぐに失点を取り戻す。
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そして、次の東3局が面白かった。茅森の手は、ツモに導かれるように789三色へと向かっていく。
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終盤にテンパイ。高目安目がある手だが、リーチをすればリーチピンフドラ赤、高目ツモでハネ満の手だ。だが、茅森はこの手をダマテンに構えた。理由はいくつかある。
まず、巡目が深いこと。そもそも、ソーズの上目が場にほとんど見えていない状況で、ドラまたぎの待ちは特に警戒されるところだ。終盤ともなれば、押し返しを諦めてオリられてしまうことも十分あり得るだろう。
そして対面の高宮が直前にを切っている。親の現物ということで、親のアクションがあったときに拾える可能性が少し上がっている。そのような、場の状況を見据えてのダマテン。
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ここで注目してほしいのが、茅森の所作である。切りは、あまりにも自然でスムーズだった。高宮の
ツモ切りからわずか数秒でのできごと。その間に狙いを定め、気配を消すことを決めたのだ。これはぜひ、ABEMAプレミアムでご確認いただきたい。
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これに捕まったのが、2つ仕掛けていた渋川。カン待ちから
を暗刻にし、ドラ単騎待ちへと受けを変えて切り出した
に
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茅森の牙が突き刺さった。
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茅森はよくネコになぞらえられるが、高打点を的確に仕留めるハント能力は、さながらヒョウやライオンといった、ネコ科でも瞬発力や攻撃力に秀でた動物のようである。
その後、渋川の6000オールなどがあり、茅森は2番手で南場の親番を迎える。5巡目にしてチンイツが見える牌姿になっていたが、が重なったタイミングで
をリリース。親番、かつ
が既に3枚切れていることもあり、チートイツなどのルートも残した。
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そして、テンパイしたならここはリーチ。先ほどと違い巡目も浅く、ドラスジはそう簡単に出る牌ではない。だったらリーチで打点を引き上げにいく。最終的には同じテンパイでのリーチになっていただろうが、ここで出る牌がなのか
なのかというところに、茅森の手組みに関する柔軟な考えが見て取れる。
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萩原の追っかけリーチを受けるが、それを振り切ってツモアガリ。ちなみにこのとき、残っているのがドラのか
なので、高目安目はなかった。
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リーチツモピンフイーペーコードラ、そこに裏ドラ1枚が乗ったのが大きい。「1日1ハネ」をクリアする6000オールで、渋川を逆転してトップ目に浮上した。
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次局もダマテンで高宮から12000は12300を直撃。これで持ち点は6万点を超え、トップはほぼ安泰と言えるリードを築いた。
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オーラスは親の渋川のリーチに対して、
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宣言牌をチーして一発を消しつつテンパイを取るが、
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切りにくいをつかんで撤退。
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その後、高宮がなかなか珍しい待ちで追っかけリーチをかけ、最後は渋川を直撃して2位浮上を果たし、試合は終了した。
茅森のこの日のアガリは4回で、収入は8000、8000、18000、12000(本場、供託を除く)。打点女王のアガリは、この日もやっぱり高かった。この日見せたような高打点への嗅覚、そして冷静に仕留める決定力こそが、彼女の最大の武器だと言えるだろう。特に、渋川から打ち取った東3局のダマテンは秀逸だった。
リーチとダマテンを駆使して高い手をアガっていけば、自ずと警戒も厳しくなる。そのなかで、相手が守備にまわる回数が増えていけば、自ずと茅森が高打点を決める回数も増えていくはずだ。
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昨シーズン、チームが苦しいときにポイントを稼いで踏みとどまれたのは、茅森の活躍が大きかった。今シーズンは近藤誠一が苦戦しているが、チームには心強い「打点女王」がいる。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。