風の如く
──永井孝典、再び──
文・小林正和【金曜担当ライター】2025年10月17日
時は令和戦国──秋の陣。
その長き戦(IKUSA)の最中、一人の将が大きな深手を負っていた。
「己の刀を研ぎ、心を鎮めよ。静寂は、嵐を呼ぶ前の“風”なり。」
その言葉を授けたのは、戦場を俯瞰し部下を導く采配者。それにより、将は十日の刻(とき)を与えられ、英気を養うこととなる。
そして今──
風林火山、その“風”が再び戦いの陣に帰ってきた。

第2試合
東家:鈴木大介(BEAST X)
南家:永井孝典(EX風林火山)
西家:本田朋広(TEAM RAIDEN / 雷電)
北家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
この試合、解説を務めた朝倉康心が永井に言葉を送る。
「最初の良いスタートが、本来の強気の麻雀へと良い方向に作用してて。そして大きなラスを引いた後の休養明け、いつも通り強気に打てれば大丈夫だと思いますよ。」

初陣で見事な勝利を掲げ、その後も戦果を重ねてきたが…

吹いていた風は突如として乱れ、前回の戦は大きな敗北。その己の刀を収めるしか無かった。そして…

十日の休(いこ)いを経て、再び戦場へ。
──そう、“深手を負った将”とは、永井孝典の事であった。

背に受けるのは、共に戦う者たちの託されし風林火山の“風”。
続けて、解説の朝倉がこう語った。
「強気に、且つ行き過ぎないで“受ける”ことも大切。そして、弱気すぎるのも良くない。とにかく平常心で打てれば大丈夫かなと思います。」
将棋用語には「受ける」という言葉がある。
相手の駒の進撃を止め、自陣を守り抜く手立てのことだ。つまり、相手の攻めを防ぐという意味である。
──それは、将棋を嗜む朝倉らしい永井へのエールだったのかもしれない。
東2局

親番の永井は、十分な手形からを暗槓へ。
ドラもなく、タンヤオ牌ばかりの構えと、守りの薄さを承知しながらも“強気”に前へ出る選択である。

次にツモったのは
いわゆる“完全シャンテン”の形だ。
ここも“強気”に構え、に手が掛かるかと思われたが…

永井は、それをツモ切った。

がすでに3枚、姿を消している。ゆえに、
は支えの牌として残したいところ。さらに、ツモ
や
などが来れば陣形は一段と厚みを増す。ただし、虎の子の
を使ってしまえば、いよいよ守りの要を失うことになるのだ。
“行き過ぎない”なのか“弱気すぎる”なのか──
その選択は、最初の命運を分ける一手となった。

は前巡にシャンテン数の変わらない本田のタンヤオへと転じた仕掛けの、まさに急所。
待ちのテンパイが入ってしまう。

こうなると、たとえリーチの矢を放ったとしても、
本田へ2,000点の放銃へ。
その刃が届かず、やられてしまうこともあるのだ。
今回は、本田らしい平常心からくる“強気”の構えが勝る結果に。永井はその攻めに討たれたのだ。
こうして、たった一つの選択が勝敗を分け、風の向きを変えていくのが勝負の常。
それが如実に現れたのが東4局であった。