東城りおに
届きそうだった2つの手
文・中野巧【月曜担当ライター】2026年11月2日
点棒には、距離がある。
同じ卓の、すぐそこに座っている相手が、何万点も先にいる。声は届く。切った牌にも手が届く。それなのに、背中だけが遠い。
この試合で東城は序盤に大きなリードを築いた。
しかし、この試合は独走した者の足跡ばかりではない。遠ざかる背中へ、なお手を伸ばした者たちがいた。
第2試合
東家:鈴木 たろう(赤坂ドリブンズ)
南家:石井 一馬(EARTH JETS)
西家:東城 りお(BEAST X)
北家:茅森 早香(セガサミーフェニックス)
東3局3本場。親の東城は44800点を持ち、すでに他の三人を引き離していた。
ドラは
。
まず先制を取ったのはたろう。ドラの
単騎待ちだ。
その
を暗刻にした東城が、勝ちか引き分けしかない勝負の中で、たろうから親の満貫をアガる。12000は12900、供託も手にして58700点へ。たろうは2600点まで沈んだ。
ひとつの牌が、片方には勝利の道を広げ、もう片方には足元の地面を失わせる。
放銃の痛みは、失った点棒だけでは測れない。次に配られた手牌で何を目指せるのか。さっきまで選べたはずの道が、点差によって細くなる。
一方の東城には、大きな余裕が生まれた。追う者がアガリを必要とするほど、先を行く者には、その勝負を見送る選択も増える。点棒は点数であると同時に、選べる未来の数でもある。
東城はこの親番で相手三人に、簡単に渡ることのできない、深くて広い堀を作った。
南1局。その溝を前に、たろうが親番を迎える。
持ち点3600点。東城は63200点。トップとの差は59600点にまで広がっていた。
数字を並べれば、この局に託せる期待の小ささが分かる。大きくアガっても、まだ遠い。けれど、遠いからといって、勝負をしなくてよい理由にはならない。たろうに大きく踏み込ませるのは自風でありドラでもある暗刻の
だった。
リーチ。そしてツモ。
リーチ・ツモ・
・ドラ3に裏ドラが一枚。6000オール。三人から6000点ずつを受け取り、たろうは21600点へ戻った。
一局で18000点を増やしても、東城はまだ57200点を持っている。大差は変わらない。それでも、3600点で見ていた景色と、21600点で迎える次局の景色は違う。
苦しいときの大きなアガリには、点棒を増やす以上の働きがある。次の勝負を選ぶ余地が戻る。自分の親番が続く。ほかの誰かが決めた結末を待つだけだった場所から、もう一度、自分で局を動かせる場所へ戻ってくる。
この6000オールは、たろうの半荘を終わらせなかった。
東城の独走を止められるかもしれない。そのことを点棒の音が知らせる。
続く南1局1本場。今度は茅森が、東城との距離を削る。
局の始まり、茅森は14000点。トップの東城とは43200点差である。前局のたろうの跳満によって点棒が動いても、茅森自身には、まだ大きなアガリが必要だった。
そこで茅森は、タンヤオ・一盃口・ドラ・赤の満貫をダマテンに構えた。
リーチという声を上げずに、8000点の手が待っている。
追う者が、いつも追っていることを知らせるとは限らない。卓上には、言葉になった攻撃と、言葉にならない攻撃がある。
アガリ牌を打ったのは、東城だった。
8000は8300。茅森は22300点となり、東城は48900点へ。直接受け取った8300点は、二人の距離を16600点縮めた。まだ26600点ある。容易には埋まらない差だ。しかし、このアガリには自分が進むと同時に、先頭の足を止める。遠かった背中が、少しだけ近くなる。
たろうが親番の大きさで局をつなぎ、茅森がダマテンの満貫で追う。二人の反撃は、それぞれ違う形をしていた。だが、反撃もここまで。
試合は東城のトップで終わった。茅森が2着、たろうが3着、一馬が4着。東城はプラス67.5ポイントを持ち帰った。
築いたリードを最後まで残した東城の勝利である。追撃を受けても、先頭の席は渡さなかった。
けれど、その勝利を「大差」の二文字だけで閉じてしまうのは惜しい。
2600点まで沈んだたろうがいた。声を上げずに満貫を狙った茅森がいた。東城の背中が遠かったからこそ、そこへ伸ばされた手のかたちが、よく見えた。
点棒には距離がある。
そして麻雀には、その距離を前にしても、次の一枚を引く者たちがいる。













