Mリーグ2018ベストオブ【多井隆晴】〜21人のMリーガー名場面集〜

Mリーグ2018

ベストオブ【多井隆晴】

21人のMリーガー名場面集

文・阿部柊太朗

 

『ぼかぁね、ヒーローになりたいんですよ』

多井の口癖のように言う。

 

10月に開幕したMリーグ2018レギュラーシーズン。序盤こそ下馬評通り順調にポイントを伸ばした渋谷ABEMAS

しかし中盤以降失速。大きくポイントを吐き出し、ファイナルシリーズ進出が大きく危ぶまれる事態となった。

そんなとき、まるで用意されていたストーリーかのように、多井隆晴はやってきた。

『ヒーローは遅れてやってくる。そうでしょ?』

そう言わんばかりに1月11日のトップを皮切りに、以降4連勝を含む個人11試合連続連対。

ABEMASのファイナルシリーズ進出に大きく貢献。気づけば積み上げたポイントは、レギュラーシーズンの個人最高成績だった。

レギュラーシーズンの個人スコア部門を受賞する多井隆晴

大きく期待を寄せられ迎えたファイナルシリーズ。しかしその結果は実に非情なものだった。特に前原への大三元の放銃は大きく印象に残るところだろう。

「もう優勝は厳しいのではないか」

「一つでも上の順位を目指す方向にシフトするべきではないか」

そういった空気の漂う中で迎えた3月24日の対局前、多井はしっかりと宣言した。

多井「残り試合、9連勝を目指します。まだ全然諦めてなんかいませんよ」

 

3月24日 16/24回戦

まずは白鳥がトップを取ると――

同日 17/24回戦

先陣を切って宣言した多井が負けるわけにはいかない。2着と500点差の薄氷のトップ。

あまりの激闘にサポーターの中には涙するものもいた。数字上はまだ厳しいものの、対局開始前の時点に比べると”優勝”という可能性がほんの少しだが現実味を帯びてきた。

期待感が高まる中で迎えた

同日の18/24回戦。

多井は南3局をトップ目で迎える。あと2局、あと2局でいい。穏便に局が進んでさえくれればそれでいい。

そんな思いを込めて手をかけた3連勝は、寿人により振り払われた。

 

 

寿人へ痛恨の18,000点の放銃。

多井「ここをアガリ切れれば本当に大きい。そう思って押しました。寿人さんがテンパイしているあらゆるパターンを考えたんですけど…。まだまだ足りませんでした」

不幸と言ってしまえばそれまでだが、多井は決してそういった言葉は使わなかった。

対局後、PV会場に到着した多井は、何よりも先にABEMASのサポーターに向けて深々と頭を下げた。

多井「本当にすみませんでした。実質的に優勝が厳しい位置にいることは自分でもよく分かっています。それでも10万点、20万点を目指してやっていかなければならない。そういう気持ちで挑んだ対局でした」

多井はなぜそこまで今日という日の結果にこだわるのだろうか。そんな私の考えを読み切ったかのように多井は続けた。

多井「僕たちには明日も明後日も試合があります。でも、今日PVに来てくれたファンの皆様にとっては今日しかないんですよね。今日輝いている僕らを見せないといけなかった。それなのに…」

多井隆晴という麻雀プロは、自分がプロであり人に見てもらう商売であるということを本当に強く意識している。多井が1日に何度もメイクルームにお色直しに行っていることはあまり知られていないことだろう。

 

3月31日 24/24回戦

事実上の優勝が赤坂ドリブンズに決まった状態で迎えたファイナルシリーズの最終対局。

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