和田さんのことが
大好きだったあの頃…
“百恵ちゃんと老人ホーム”
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.19
老人ホーム
百恵ちゃんの家は共働きだったため小さい頃から近所の和田さんというおじいさんの家に預けられていた。ちなみに和田さんとの血縁関係は全くない。お母さんは昔から暇そうな老人を見つけるのが得意であり高齢者の友達がたくさんいたのだ。
ちなみに今はワカサギのおじさんというおじいさんが主力メンバーだ。文字通りワカサギ釣りに連れて行ってくれるおじさんである。
和田さんは毎日遊びにくる小さな百恵ちゃんをたくさんかわいがってくれた。遊びに行くといつも一緒に近くにある商店に行きお菓子を買ってくれた。小学校にあがるときにはランドセル、学習机、電子ピアノを買い与えてくれた。百恵ちゃんももちろん和田さんが大好きだった。トイレにまでついて行っていたしお風呂も覗いていた記憶もある。更に自分の部屋に和田さんの書いた水墨画を飾っていたほど大好きだった。
しかし、和田さんは百恵ちゃんが小学校高学年に上がる頃に熟年離婚してしまい、滝川市から30キロほど離れた旭川市にある老人ホームに引っ越してしまった。
離れ離れになっても百恵ちゃんは月に1度は一人で電車に乗って和田さんのいる老人ホームに通っていた。和田さんのお友達とくるみを移動させるだけの謎の遊びをしたり、夜は知らないおばぁちゃん達と大浴場に入り和田さんと一緒に寝た。朝になるとみんなで朝食を食べていた。毎月やってくる続柄不明の女の子のためにみんなたくさんお菓子を買って待ち構えてくれていて百恵ちゃんはこの老人ホームが大好きだった。もし生まれ変わっても子供時代は老人ホーム通いをしたい、と思う。
ちなみにそんな和田さんのことをお母さんは百恵ちゃんのはじめてのパトロンと言っていた。本当に最低だと思う。
おかあさんセンス
百恵ちゃんのお母さんは美容師であるにも関わらず、センスが全くない。
どこで買ってきたのか知らないがノーブランドのクソダサいジャージを小学生のお姉ちゃんに買い与えたことがあったのだが近所の芝犬を何時間も散歩させてる有名なおじさんが毎日着ているジャージとおそろいだった。もちろん他の人がそのクソダサいジャージを着ているところを見たことがなかったし百恵ちゃんがおさがりで回ってくることが怖くて仕方なかった。
しかも買ってきた本人であるくせにお姉ちゃんに向かって
「うわぁタエが着てるジャージ、芝犬おじさんとおなじだぁ〜ウケる〜」
といじり倒してお姉ちゃんを泣かせていた。お姉ちゃんの性格が悪くなるのも無理はない。
百恵ちゃんやお姉ちゃんの通っていた中学校では制服登校の日は少なく普段は指定のジャージでの登校だった。田舎の中学校のジャージなので裾がしぼんでいるタイプのひどいデザインなうえ、上下にしっかりと名字が刺繍されていた。
グレたお姉ちゃんが裾を切り刻んでバッキバキに改造したジャージをなぜかお母さんが気に入って着るようになり、そのまま買い物に出掛けたり通学路のど真ん中で庭仕事をしたりするので百恵ちゃんは本当にそれが嫌で勝手に捨てた。
更に料理のセンスもなかった。ホットケーキに入れる牛乳を水で代用する。そういった手法はあるのだがいかんせん適当で分量などは一切計らないため万人が「まずい」と言い切れる代物ができあがる。しかもそれを大量に製作し冷凍しておくため田渕家はいつ何時そのホットケーキが出てくるかわからない恐怖に怯えていた。
百恵ちゃんのお母さんにかかればカレーさえもしっかりまずく作る。
毎回じゃがいもは真っ二つに切るだけでバカでかいので火が中まで通らずいつもシャリシャリいっていた。カレーのルーが足りなくなってシャバシャバのカレーが出来上がっても
「今日はスープカレー♪スープカレー作ってみました〜♪」
と言い張ってお父さんがブチ切れたこともあった。
しかしそのおかげで百恵ちゃんとお姉ちゃんは分量をきっちり測るタイプの料理上手になった。
しかし未だにホットケーキだけは嫌いだ。
次回は3月5日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!