「朝倉よ、打ってしまえ」
刹那の結果より
小林剛が求めたのは──
麻雀プロの未来だった
【須田良規のMリーグ2021セレクト12】文・須田良規
2月15日(火)の第2試合、U-NEXT Piratesの朝倉康心は55600点のトップを叩き出す。
その活躍の足掛かりになったと、誰もが思った朝倉の放銃回避シーンがあった。
東1局1本場、南家のKONAMI麻雀格闘倶楽部・伊達朱里紗からドラ単騎のリーチ。
それを受けての東家朝倉である。
通常この手は、ドラも浮いているし、現物のやを抜いていくところである。
しかしなんとこの瞬間。
北家のTEAM雷電・萩原聖人が切りで目立たない現張りカンのマンガンをテンパイしていた。
さすがにこれは朝倉が打つ──。
おそらく観戦していた者全員がそう思ったであろう。
まずは。しかしに手がかかるのは時間の問題だ。
萩原はツモ切り。まだ目立ってはいない。
そして朝倉。
ツモでカンチャンは埋まったが、到底リーチに戦える形ではない。
唯一の現物であるを切るしかない。
まあ前巡は耐えたものの、これは仕方ない放銃になるだろう。
しかし朝倉は長考の後──、
なんとスジのを切った。
そしてすぐに西家のKADOKAWAサクラナイツ・内川幸太郎からもリーチが入り、
一発目に萩原が掴んだ牌は、
伊達の当たり牌であるドラのだった。
萩原はやむなくを切って撤退。
ここでやっと、今まで萩原が待ち望んでいたを、朝倉が逃がしていく。
TEAM雷電サポーターにとっては憎らしいほどのタイミング、
そしてU-NEXT Piratesサポーターにとっては最高のファインプレイに映ったことであろう。
ただ実際──、試合後に朝倉本人も語っていたように、これは萩原に対してを止めたわけではなかった。
このとき内川がを切っていて、チュウチャン牌の切り具合からも内川のスピード感を朝倉は意識していた。
よって、想定される内川からの追いかけリーチに対して、内川の現物でもあるを取っておきたかったのだという。
そして万一ドラのを重ねた場合にまだ押し返せる形をキープしたかったこともあり、
スジのを落としにかかったわけだ。
とはいえこれは、多くの人がを切ってマンガン放銃しているところを、
朝倉の粘りによって奇跡的に回避できた形である。
偶然の僥倖も、レギュラーシーズン終盤の剣ヶ峰としては、ありがたい限りであろう。
ところが、である。
この幸甚を、良しとしない者がいた。
それは誰あろう──、U-NEXT Pirates船長の、小林剛だったのである。