雀荘にヤクザ?
それは大昔の話
フリー雀荘はヤクザがいそうで怖い。
漫画などの影響でそんな感想を持っている人がいるかもしれませんね。
大昔ならいざ知らず今ではまったくと言っていいほどいません。
私の店でそれらしき人を見かけたのは20年くらい前の2組が最後でした。
1人はお客さんだったんですが、左手の小指に指サックをしており、中身があるのか無いのかちょっと気になりました。
マナーが悪いので、改善のお願いと注意をして、最終的には来店お断りを告げました。
私との話し合いの中で、色いろ難くせを付けられて、お金を請求されましたが、やんわりとお断りしました。
私の電話番号は教えてあったので、時々電話がかかって来てお金の無心をされました。
全部断っていたら「もう飯食う金が無いんだ、少しでいいから都合してほしい」
という弱々しい声を最後に連絡が来なくなりました。
「山ちゃんね、ヤクザはみんな貧乏よ。組員のほとんどはハイナシ。自分で稼いでいるのは僅かで、たいていは親か女に食わしてもらってる。俺は女3人」
大昔に聞いたヤクザだと名乗る男の話です。
「じゃあ親分にならないとダメなんですか」
「いや、親分も半分は貧乏だな」
本当かどうかは分かりませんが、なんとなく納得してしまいました。
大昔はヤクザを名乗る男がたくさん雀荘やパチンコ屋にいましたが、あまり羽振りの良さそうな人は見かけなかったからです。
もう一組は私の店に、いわゆるミカジメ料用心棒代を取りに来ました。
2人一組で、一方が乱暴な態度に出て、もう一方がそれを取りなすという、お笑いコントのようなコンビでした。
すでに暴対法ができており、こうした営業は無理。
「すみません、私どもは当局から厳しい指導を受けており、そうした要望にはそえないんです」
当局の指導は明確。
「営業者のみなさんは、暴力団と直接対応せずに私どもに任せてください。日本で暴力組織と武器を持っているのは、彼らと私たち警察、それと自衛隊だけです」
雀荘やパチンコ店は、ヤクザを黙認すると、他のお客さんの顰蹙を買うだけでなく、当局に睨まれることもあるので、縁を持たないようにするのが普通です。
大昔のパチンコ店は雀荘よりもはるかに稼ぎが大きかったせいもあり、一部にヤクザが食い込んでいました。
私の麻雀仲間のパチンコ特殊景品の両替店主は、開店のために数千万円払ったそうです。
パチンコ店の新規開店を阻止するために、糞尿満載のバキュームカーで、店に突っ込んだ事件もあありました。
あのー、私自身が麻雀で元ヤクザだと名乗る解体屋さんに、
「アンタの店(当時弁当屋)に突っ込んでやろうか」
て脅かされたこともあります。
その人にとっては安い麻雀での感情の混乱ですが、勝負事はそれを狂わせてしまう魔法があるかもしれません。
私が銀玉親方としてパチンコの攻略ライターをやっている時に、ある暴力団関係に詳しい有名なジャーナリストから、パチンコとヤクザの単行本出すので推薦文を書いて欲しいと依頼がありました。
(編集部の依頼かも)
私はそのジャーナリストを尊敬していますが、慌ててお断りました。
だって本人やご家族がヤクザに襲撃されても筆を曲げない信念の持ち主ですよ。
私にはとてもそんな度胸はありません。
才能あるヤクザは
出世よりも早死にする
私の故郷の山間部に地元の一部の人たちにとって、大スターであるすでに亡くなった暴力団幹部の立派なお墓があります。
やはり大昔の話ですが、地元で喧嘩や金儲けで名を上げ、とうとう全国的な暴力団のナンバー2まで上り詰めた人物です。
ナンバーワンすなわち親分とともに、ライバル組織に襲撃されて命を落としました。
そんな才能ある大物は、安い博打場では見たことがない。
安いギャンブルは、目腐れ博打などと蔑称されることもありますが、レートと関係なく盛り上がるのが素晴らしい所です。
「ヤクザはみんな貧乏だよ」と言ってたヤクザは
「抗争で死ぬヤツはまずいない」とも言ってました。
「ストレスの大きい生活だから、酒で肝臓をやられたり、心臓を悪くしたり精神的におかしくなるヤツもいる。俺なんか臆病だからなんとか、この生き延びてるんだ」
かつて必勝ガイドの編集長の末井昭さんといっしょに、別のヤクザを名乗る男と会ったことがありますが、その人は度胸がありすぎて怖かったです。
いや、私たちに危害が及ぶというのではなく、あまりにも喧嘩っ早そうなので、いずれ命を落とすのではないかという心配です。
私はギャンブルライターなので凄く強い人が勝つのは、そこそこに信用しますが、その人が連勝し続けるのはあまり信じません。
喧嘩がもの凄く強くて、仲間の面倒を見るための金儲けが上手い。
この2つを同時に満たす事自体ほぼ無いのに、一生続けるなんてのは奇跡的。しかもヤクザらしく抗争で死んだと。
今の雀荘はヤクザの代わりに女性が増えているくらいだから安心です。
(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2018年6月15日号)