風見くくが、零した涙を拭う
嫌いになんて
なってやらない
いつか笑うその日まで
神域リーグ2023第5節。
この日は、確かにグラディウスが流れを掴んでいた。
苦しい展開が続く中で、先陣を切った朝陽にいながトップ。
続いた天開も、トップが見える惜しい展開ではあったものの、2着でプラスポイントを重ね。
どんよりと曇っていたグラディウスに、一筋の光が見えていた。
そんな中、この日の最終戦を任されたのが、風見くく。
言葉にはせずとも、プレッシャーはあったはず。
ようやくチームに追い風が吹き始め、自分も、その流れに乗りたいという想いと。
チームのこの雰囲気を止めてしまうのが怖いという恐怖心。
チーム戦ならではのそんな緊張感が張り詰める中、風見くくが戦場に立つ。
始まったら、もう戻れない。
できれば、後悔のないように。
風見にとっても、チームにとっても大事な第15試合の幕が開く。
第15試合
東家 風見くく (チームグラディウス)
南家 多井隆晴 (チームアキレス)
西家 空星きらめ (チームヘラクレス)
北家 桜凛月 (チームゼウス)
序盤、いや終始この対局の展開を握ったのは
絶好調女王、空星きらめだった。
東1局最初のリーチこそ空振り流局するものの、続く東2局。
このテンパイから空星は即座に切りリーチを選択。
が4枚見えていてが使いにくく、赤もあるためカンの選択もありだが、ここは鳴いている多井に通っている+スジになって出やすい待ちでリーチ。
これを一発でツモ。
前節の勢いそのままに、空星が躍動する。
そして迎えた親番東3局
空星はこの形から切り。
「が薄いな」
しっかりと河から拾える情報を活かし、一気通貫はここで見切る。
くっつきとして優秀なと、の連続形を活かし、好形を作りに行く。
を引いてのテンパイは、満足のいくテンパイではない。
けれど、シャンポンのは端の牌で待ちとしては悪くない。
ここは親ということも手伝って先制リーチ。
相手の手の進行を妨げるという意味合いも考えれば、十分すぎるリーチだ。
数巡後、風見の手が、テンパイに辿り着いていた。
ドラを3つ使っての、高打点が見える。
しかしもも親の空星には通っていない上に、待ちの枚数もとが共に1枚ずつ切れていて、同じ。
どちらにするかは、風見に託された。
「枚数同じか……うぅ……」
風見の苦悩が、画面越しにも伝わってくる。
テンパイが入ったらリーチ。監督の渋川からそう教わってはいても、このような難しい局面は自力で考える必要が出てくる。
との間を、風見の手が行き来する。
額には、大粒の汗が流れていただろう。
「ごめんなさい!」
謝罪を口にしながら、風見は切りリーチを選んだ。
良いと思う。利点は2つほどあり、まずはに赤があること。これはシャンポンにした時がドラなので条件としては同じだが、もう1つ。
空星の河にが通っている事。
空星の待ちがリャンメンであると仮定した時、切りは空星の待ちがでもでも当たってしまうが、ならばにしか当たらない。
ここまでを風見が考えたかどうかは定かではないが、仮にそうでなかったとしても。
自分で考え、出した結論なのだ。謝る必要なんて全くない。監督だってそう言ってくれるはずだ。