卓上のヒットマンは
見逃さない──
チームを救う、
若きエース松本吉弘の英断
文・江崎しんのすけ【曜担当ライター】2023年10月2日
第2試合
東家:中田花奈(BEAST Japanext)
南家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
西家:鈴木たろう(赤坂ドリブンズ)
北家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
Mリーグ2023レギュラーシーズン18戦目。
オーラス突入時、松本はトップを維持していた。
その持ち点は38,600点。2着目のたろうが38,100点で目と鼻の先まで迫ってきている。
かろうじてトップ目に立っているものの、松本が有利かと言われればそうでもない。
点差が500点しかないため、当然たろうが何をアガっても逆転される。
松本は親番なので3着争いをしている堀・中田に500-1,000より高い手をツモられても逆転となる。
さらにテンパイ料でも逆転するため、流局時たろうにテンパイが入っていれば松本は手牌を伏せることもできない。
Mリーグルールではオーラスのアガリ辞めが無いため、安い手をアガったとしても同じ条件でもう1局やるだけなので、ある程度の打点を作りつつ、アガリに向かわなければいけない。
もちろん堀・中田間での横移動など、松本がアガらずともトップになるパターンも多いため、不利とまでは言わないが、松本・たろうどちらがトップを取るか確率で言えばほぼ五分だろう。
そのため松本はストレートに手を進めていく。
幸い手はまとまっており、10巡目でカンチャン・リャンメンのイーシャンテン。から入れば5,800点スタートで打点的にも申し分ない。
直後、4着目の堀からリーチが入った。
リーチ・平和の待ち。
堀は3着目の中田まで12,300点差で、跳満をツモるか1本場供託1本なので他家からリーチ棒が出たあとに満貫をツモると逆転することができる。
ただ堀は一通のカン待ちは選択せず、平和になる待ちを選択した。
一通でリーチを打ち、ツモったとしても跳満までは2翻足りず逆転の可能性は薄い。
リーチ棒が出たあとにをツモれば満貫でも逆転することができるが、この状況でリーチ棒を出す可能性が一番高いのは親番の松本(たろうは点数がいらないためリーチの必要がなく中田も着順アップの可能性が低く前に出てきにくいため)で、親リーチがかかったあとに、ツモアガリだけが嬉しいカンチャン待ちで追いかけるのも微妙だ。
であればアガれそうな3面待ちに構え少しでも素点を回復させよう、という思考だろう。
堀のリーチがかかった直後。
松本は堀のロン牌であるを引く。
先ほど書いた通り、条件的に松本は簡単に引き下がれる立場ではない。
堀の捨て牌も種類が少なく、無筋1枚がロンと言われる可能性は低い。
第一試合でも話題に上がっていたが、リャンメンに当たるパターンは全部で18パターンあり、堀の現物を数えると5パターンが消去される。そして松本の目からが4枚見えているのでも否定され残っている両面のパターンは12パターン。
1枚の無筋をプッシュしてリャンメンに当たる確率は12分の1、約8%程度しかない。
松本の放銃での決着となるかに思われたが…
松本はあっさりと堀の現物であるを切り、
3巡後には完全に手を壊すを選んだ。
何度も書くが、松本は堀がツモっても流局時にたろうがテンパイを入れていても着順が落ちてしまう。
非常に難しい局面であったが、ほとんど時間を使わずノータイムでオリを選択した。
なぜこうもあっさり松本はオリたのか。
松本は、たろうにテンパイが入る可能性が低いと読んでいたのだ。
ポイントは数巡前のたろうの捨て牌にある。
たろうは8巡目、を手出しして
次巡を手出ししている。
この瞬間松本の手が一瞬止まり、たろうの河を凝視する。
松本はこの違和感を見落とさなかった。