南3局、渡辺太の強さの根幹を見た
文・東川亮【金曜担当ライター】2024年2月9日
第1試合
西家:岡田紗佳(KADOKAWAサクラナイツ)
北家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
大和証券Mリーグ、2月9日の第1試合は岡田紗佳が快勝、個人成績を試合終了段階で3位まで上げると共に、チームポイントを500の大台に乗せた。
全14局、アガリの生まれた11局の内、実に10局が放銃決着という打ち合い。ただ、その内容はリーチのめくり合いやしたたかなダマテン選択、読みを利かせる以前の速攻、勝負形からの1牌勝負などやむを得ないものも多かった。
この試合で、渡辺太は3度の放銃をする。
東1局、日向の切りリーチに対しての一発目で通っていないを押し、高目ハネ満からという大物手の追っかけリーチをぶつけるも、先に日向のロン牌をつかんでしまう。これが日向の、山に残った最後のアガリ牌だった。
2度目は南1局1本場、2つ仕掛けた岡田のカン待ちに振り込み。そこそこまとまった手であり、なにより太の河には3枚しか牌が並んでいない。さすがにこれは回避不能。
3度目は南2局、親番でタンヤオピンフの3メンチャンリーチをかけるも、宣言牌が岡田の先制リーチに捕まった。これも親番でオリは考えられず、当然の放銃と言ってもいい。
2900、1000は1300、1300と、打点はいずれも低かった。放銃自体も、ミスや不用意な一打があったわけではない。ただ、これだけ放銃が続くと、少し嫌なイメージが頭をよぎる打ち手もいるかもしれない。しかし、このプロ歴1年にも満たない新人は、そんなタマではもちろんなかった。
南3局、太はポン、ポンと仕掛け、早々にカン待ちのテンパイを入れた。打点を狙いにくい手材料なら、まずはアガってトップでオーラスを迎える。1000点をアガっても岡田、日向との差はわずかではあるが、それでも有利であることに変わりはない。待ちのは親の岡田の現物である。
だが、この局は太にとって難しい展開となった。親の岡田がを暗槓し、
リンシャン牌でを引き入れ、待ちのリーチをかけた。
太の待ちはリーチの現物なので、他家から打たれてアガれる可能性もある。岡田のリーチ棒を回収できれば、多少の条件は突きつけられる。ただ、待ちは決していいとは言えない。果たしてどこまで戦うべきか。
リーチの一発目、をカラ切りして待ちテンパイを続行。岡田のはツモ切り、そこからの切りリーチだが、待ちが残っているならを2枚切れのより優先して引っ張るのは不自然だし、シャンポン待ちやカンチャン待ちもやや手順に違和感がある。
そして太は、ここから強烈に押していく。は無スジ。
は新ドラながらも暗槓、直前に日向がを切っていてやや切りやすくなってはいた。ただ、放銃すれば高いのでやはり怖い。
さらにも押す。が通って片スジ、単純なリャンメン待ちだとドラではないほうになるが、それにしても強烈だ。雀頭のは暗槓で1枚切れ、単騎待ちにしか当たらない、かなり安全な牌。安全策を採れるにも関わらず、1000点のテンパイのために身を削るような牌を切っていく。
そんな太の元に、ロン牌が訪れる。
この時点での全体牌図。
リャンメン待ちのスジは全部で18本あるが、ソーズは全滅、残りも以下の4本まで減っている。
リーチがリャンメン待ちならば、単純計算で放銃確率は25パーセント。そしてこのなかで唯一2スジに当たるのが。つまり、確率は倍の50パーセントになる。リャンメン以外の形も含めると、相当に濃度が高い牌だ。
ここが、このが引き時だった。切りで大きく迂回。
直後、そんな太の目の前を直前までのロン牌が通り過ぎる。
そして岡田がツモった。裏ドラ2枚を乗せたリーチツモイーペーコー赤裏裏、6000オールのアガリは、この試合唯一のツモアガリであり、試合の決定打ともなった。
一方で、この局は太の止めが見ている側にとってインパクト抜群に映った。だが本当にすごいのは、6mを止めたことよりも、を止めるまでに打った危険牌の数々にあると思う。1牌押すごとに危険度は増し、相手は親リーチで、しかも暗槓までついている。放銃すれば、決して安くはないだろうし、トップが見えるところからラス落ちまであり得る局面である。
もちろん、押すに当たって太なりの理はあったはずだ。しかし彼とて人間、気持ちがブレることもゼロではないだろう。特にこの試合では放銃も重なった。逃げようと思えば、目先の逃げ道だってあった。それでも押すべき牌をしっかり押せるところに、渡辺太という打ち手の強さの根幹を見た気がした。それは膨大な経験と研究に裏打ちされた、自分を信じられる、導き出した結論に命運を委ねられる精神力の強さではないだろうか。