飛べない鳥──
それでも、羽根を
広げ続ける白鳥──
文・小林正和【金曜担当ライター】2025年4月18日
突然だが「一生のうち、隕石と衝突する確率」をご存知だろうか。それは…
「約0.0001%≒100万分の1」
こう聞いても、あまりに非現実的すぎてピンと来ないかもしれない。では、こう言い換えてみよう。「年末ジャンボ宝くじで1等が当選する確率」それは…
「約0.00005%≒2000万分の1」
そう考えると…100万分の1という数字が少しだけ現実の輪郭を帯びてくるではないか。
“ひらひらと1本の白い羽根が春風に舞い、ある1点に着地する確率”──100万分の1。それは、数式では測れない奇跡である。
今宵、白く凛と輝く一羽の鳥が、その自ら信じた空を目指し、ただ真っ直ぐ羽ばたき続けていた。

第1試合
東家:瑞原明奈(U-NEXT Pirates)
南家:白鳥翔(渋谷ABEMAS)
西家:渡辺太(赤坂ドリブンズ)
北家:黒沢咲(TEAM RAIDEN / 雷電)
縦長となったポイント状況により、本日の対戦カードは明確な二極化となりつつあった。

それは、レギュラーシーズンに長くに渡って首位に君臨してきたドリブンズと、遂にその座を奪い返したパイレーツによる、熾烈なポイント・リーダー争い。
そして一方では、ファイナル進出を懸けた4位・雷電と、再び奇跡を起こしたい6位・ABEMASによる、ボーダー争いの火花が散っていたのである。
東1局
開局早々、その持ち味を遺憾なく発揮したのは太であった。

まずは四者の配牌をご覧いただこう。
さて… あなたなら、どの席を選ぶ!?

恐らく、一番人気となるのは瑞原の手牌だろう。
親番というアドバンテージに加え、ドラ2・赤で打点も十分。更に、タンヤオ仕掛けが効けばスピード感も備わるというバランスの取れた好配牌である。

逆に、選ばれにくそうなのが太の席だろう。
もしこの席に座っていたならば、「遊び局」と割り切って、マンズのメンホンを視野にピンズから処理していく。そんな選択をする人も多いのではないだろうか。

しかし、太は序盤から守備駒となる字牌を惜しげもなく切り飛ばし、何とピンズの雀頭とメンツを捉えてリーチ一番乗りを果たす。裏ドラ2枚は思わぬご褒美だったが、黒沢からの満貫出アガリへと繋がったこの一局は、見た目以上に難易度の高い加点であった。
いきなり訪れた大きな点数移動。ただし、麻雀という競技の性質上、これくらいの動きは決して珍しいものではない。
だが、そんな悠長なことを言っていられない人物が、いま画面に映し出されていた。

“白い鳥が翔ぶ”と書いた“白鳥翔”だ。
トレードマークの金髪ヘアーを靡かせ(なびかせ)ながら、いつも通り静かに牌と向き合っている。

しかし、その輝く瞳の奥には誰にも見せない“十字架”が潜んでいた。
残り10戦で追いかけるのは、遥か彼方である4位までの630ポイント差。そこはまるで、10連勝という十枚の羽根をすべて完璧に羽ばたかせなければ辿り着けない、遥か彼方に続く空の上なのである。
それを数学的に換算すると
(1/4)×(1/4)×…×(1/4)×(1/4)≒0.000001
つまり、その確率0.0001%≒100万分の1という奇跡の確率に等しい。
今だけは神がかったアガリや他者のスーパープレイなどに目を奪われている時間はない。必要なのは、たった一つ…
“悪魔に魂を売ってでも欲しい物”
“トップ”という名の“結果”である。
東2局
東家・白鳥
僅か2巡目ながら、赤2枚を抱えた待ちという迷いない形でリーチ宣言へ。
少し気掛かりなのが、チームはファイナル進出の望みをわずかに残す苦境に立たされているにも関わらず、あまりにも出来すぎたような幸運という点。しかし、とにかく今は結果が欲しい…。
(アガリたい… いや、一発と裏ドラ3枚乗せて8,000オールくらいは…。)