西原理恵子 & 山崎一夫 旦那麻雀と乞食麻雀!

 

旦那麻雀と
乞食麻雀

私がかなり以前に通っていた東京の神楽坂の小さなバラ打ちの雀荘に、社長と呼ばれている、体格のいい中年の男性がいました。

見た目が相撲取りみたいで、目つきが鋭いので、ヤクザ映画の親分のようにも見えました。
噂では、元は関西のヤクザの親分だったけど、事情があって東京に逃げて来て、解体屋を経営しているとか。

毎日のように雀荘にいて、時おり電話に出て、仕事の指示を出すなど、事務所代わりにしておりました。

社長の麻雀は、いわゆる旦那麻雀で、小さなアガリには見向きもせず、大物手を狙って真っ向勝負するタイプ。

大物手は時間がかかるので、早アガリや安アガリのメンツに囲まれると、アガリの回数はどうして少なくなる。

結果的に、毎月かなり大きく負けているようでした。

 

「またゴミ(500・300)拾いの乞食かよ。ちったあ、俺みたいに男らしく勝負をしろよ」

 

乞食麻雀は死語だと思いますが、当時は日常的に使われてました。
旦那麻雀とは真逆で、だいたい次ようなタイプ。

「棒テン・即リー」

「先手即リー、後手ベタ降り」

「出るポン・見るチー」

「バックに形テン、方アガリ」

などがその典型。
その他にも、

「リーチ一発は消す」

「他家のハイテイはズラす」

「ラス確でもチップを拾う」

などがある。
けっこう現代的的ですよね。

 

乞食麻雀の(私はそうは思っていませんが便宜上使います)アガリ自体は千点でも、他家のアガリを未然に防ぎ、実際には千点以上の価値がある。

今のデジタル打法の原型かもしれません。

実戦では単にデジタル的に有利なだけでなく、相手に与えるメンタルなダメージも大きい。
特に旦那麻雀を打つ人は、乞食麻雀にイライラしがちです。

「おい、1鳴きなんかしてんじゃねーよ」

「リャンメン食うのは、男の恥だって知らねえのか」

「ちきしょう、当たれるものなら当たって見やがれ!」

「ロン!」

いつも負けている社長の麻雀に対するプライドは、雀荘の月間ポイントレースで優勝することで、守られているようでした。

レースのポイントを稼ぐためには、勝率よりも打つ回数が多いことが重要です。
回数がダントツに多いのは、雀荘を事務所代わりにしている社長と、ほぼソファに泊まり込みの雀ゴロなどの数人。

月末のレース終盤、店のメンバーが本走に入った時は、どうやら社長に味方してるようでした。

社長が大物手を作るチャンスを提供したり、ロン牌を見逃したり、親を安い手で落とさないようにしたりとか。

一方雀ゴロには、欲しそうな牌を鳴かせないなど、厳しく対応してた。
そんなこともあり、1年のうち、半分くらいが社長が優勝でした。

社長はお金が欲しいのではなくて、好きな麻雀の名誉が欲しかったのかもしれません。
雀荘にとっては、社長を優遇することによって、部下だけなく取り引き先まで、遊びに来てくれる。

 

社長という太客一人で、経営が成り立っているような雀荘だったんです。

ハデな喧嘩は
意外と安全なのだ

社長に対しては、店の従業員だけでなく、お客さんも気を使っておりました。
社長とサシ馬を握って、コンスタントに勝っている年配の雀ゴロもいました。

乞食麻雀をせずに、社長に合わせた旦那麻雀に見せかけて勝つんです。

乞食麻雀で(たびたびすみませんね)勝率を最大にするのではなく、見せかけの旦那麻雀で、勝ち金額を最大にするんです。

ある時、新規の若い雀ゴロが社長と年配の雀ゴロと私のいる卓に入って来ました。
社長や常連の雀ゴロの、ゆったりした旦那麻雀を見て、さっそく乞食麻雀でガツガツと稼ぎ始めました。

「ロン、中ドラ1」

後付けでニ千点かよ」

「だってアリアリだろ?」

社長はイライラしている様子でしたが、一度電話をかけに席を外しただけで、それ以上何も言いません。

しばらくすると、解体現場から駆けつけたのか、ニッカボッカやヘルメットの屈強な男たちが数人現れました。

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