森山会長・浅井プロ緊急対談
「麻雀最強戦2020の
一幕、そして
麻雀プロ論について語った」
文・東川亮/取材:2020年2月23日
「麻雀を辞めた方がいいね」
2/16に行われた麻雀最強戦2020「超攻撃型プロ決戦」決勝戦において、解説を務めた日本プロ麻雀連盟・森山茂和会長が浅井裕介プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)に向けて放ったこのひと言は、視聴者・麻雀ファンの間で物議を醸した。
これは浅井プロが形式テンパイを取った結果、近藤誠一プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)に勝敗を決定づける6000オールをツモられてしまったことを受けての発言だ。
森山会長はこの鳴きが危険であると警告を発していたが、浅井プロもこの形テンの判断に後悔はないという。
あれから一週間。
今回は2人に竹書房本社にお集まりいただき、あの場面や麻雀観について、対談形式で語っていただいた。
形テンの判断、リーチの判断
浅井 今日はよろしくお願いします。
森山 浅井さんは麻雀界一キレやすい男、ということだけど、全然キレないじゃない(笑)。僕の方がキレやすいと思いますよ。あの場面もキレてしまって、ついあの言葉が出てしまったわけなんだけど、他団体の選手に言う権利はないですし、あれは申し訳なかった。僕も反省しています。
浅井 言葉に関しては僕も体育会系出身ですし、何も気にしていません。ただ、あの形テンに関しては、正直今も全く反省はしていません。形テンを取ったときに「これでツモられたら、流れ論の人たちにめちゃくちゃ言われるんだろうな・・・」とは思っていましたが。
森山 浅井さんはそれまでもあまり流れがないような状態だったし、そういうときは一つ失敗しただけで終わらせなきゃ、というところは思いますよ。余計なことはせず、じっとしてオーラス勝負。特に最強戦は1位しか意味がないから。調子が悪いときに動いて「こういうのは危ないな」と思ったんだけど、やっぱりあそこでツモられて、いい戦いがつまらなくなっちゃったなと。ただ、これは本当に浅井さんにとってはとばっちりかもしれないんだけど、最近の傾向として、あまり良くないなと思っていたんですよ。勝敗を決しない形式テンパイなどの鳴きをして、勝負を決するような手をツモられてしまう。それが最近いやだなって思っているところに、目の前で浅井さんがやったから、思わず浅井さんにキレちゃった(笑)。本当にごめんなさいね。
浅井 僕はまだ流れというものを身につけていないので、この状況だけを判断して、形テンを取った方がいいと考えました。僕らが気にするのは、実際にそれを鳴いた方が得かどうか、というところで、実際に鳴いてうまくいったとしても、得じゃないことをやっている場合もあるので、その検討には時間をかけています。
森山 それはそれでいいんだけど、損得だけでやっていると、麻雀の本当の奥深くまではいけないと思う。もちろんある程度のところまでは行くんですけど、僕としてはさらにその先まで行ってほしい。目先の損得に走らず、正々堂々と戦って勝つにはどういう方法があるか。近藤さんは堂々としていますよ。
浅井 鳴くのは汚いことなのでしょうか?
森山 鳴くべきところは鳴くべきであって、鳴くなと言っているわけじゃないんですよ。肝心なのは使い分けで、でも最近は「この鳴きはいらないよね」というのが多すぎるな、とは感じる。
僕は長年麻雀を打ってきて、変な動き、不自然な動きをしてアガられてしまうと、それは相手にエネルギーを与えているようなものだ、と考えているんです。ちょっと相手を助けてしまうと、その相手に一気に巻き返されて痛い目を見る、なんていうのは、麻雀を打っている人はみんな感じたことがあると思いますよ。実際、浅井さんもあの局で1回アガリを逃しているよね。だからこそ、僕もあそこまで言ってしまった、というところがあった。
浅井 待ちのシャンポンテンパイのところですよね(※役なし待ちをヤミテン、次巡リーチの近藤誠一プロがをツモ切る)。あそこは、放送時には「100パーセントリーチはない」と言いましたし、世間一般のマジョリティーもヤミテンだと思うんですけど、1位しか意味がない決勝ということを考えれば「リーチもちょっとあったかな」と今は思っているんです。もちろん、ドラ引きやメンタンピン、三色などの手変わりを見ていた、というのはあるんですけど。実際に、連盟さんの強い打ち手がああいう場面でリーチを打つのを見たことがありますし、誠一さんもあそこはリーチを打ったのかもしれないな、とも思っています。
森山 あれは僕もリーチを打ったと思うよ。「が出たのはたまたまだろ」と思う人もいるかもしれないけど、それは違う。そこで勝負を懸ける、死に物狂いでいかないといけないところで、そういうものが麻雀の中で出せるかどうか、だよね。
プロが見せるべき麻雀とは
森山 最近は一般の方の間でも、形テンをとったりハイテイをずらしたり、という場面をよく見ますけど、僕らは経験の中で、それがよくない結果になるのを学んできているし、それを多くのファンの方々にも分かってほしいと思っています。目の前の点数のことだけで動くだけだと大局観がなくなって、麻雀自体が味気ないものになってしまう。そこはプロがしっかり伝えて、ファンのみなさんが正しい目で見られるようにしていかなくてはいけないと思うんですよ。
浅井 「流れ」というところでいうと、村上淳さん、鈴木たろうさん、小林剛さんの「オカルトバスターズ」は、局と局の間に関連性はない、牌が積まれている順番はバラバラだと主張していました。
森山 彼らがそう思っているだけで、実際には麻雀の本質とマッチしているところがあると思うよ。人それぞれ自分らしい麻雀を打てばいいんだけど、その中でいい部分を利用していけばいいんじゃないかな。この間もたろうさんの麻雀を見たけど、やっぱり自分なりの戦い方を持っていて、自分に流れを持ってこようとしていたよね。
浅井 世の中には流れ論を信じている人がたくさんいますし、そういう考えで強い人もいっぱいいます。そういう人たちがいるのを切り捨てて考えるのはよくないと思っています。
森山 それが大事だよね。麻雀に大事なのは素直さ。流れとかの話をしても信じない人はたくさんいて、そういう人には話してもしょうがないってなっちゃうんだけど、いいところは素直に取り入れていくのがいいと思うよ。前原(雄大)なんかもすごく素直で、その分ダメなところまで信じちゃうところもあるんだけど(笑)。
浅井 最近は麻雀を数式で分析するようなものも増えていて、それも非常に参考になるんですけど、実際の対局中にその式で計算ってできなくて、最後はやっぱり経験則になるんですよね。そこで感じるのが流れなのかなと。それに、数式だって本当に合っているかどうかは分かりません。僕もまだ、数字の部分で麻雀を修めてはいないですし、今も研究を続けていますけど、その先に森山会長がおっしゃったようなことを理解できるようになるときが来るかもしれません。
森山 そう思ってくれれば、浅井さんにとってもプラスになりますよ。麻雀プロは「俺たちプロは目に見えるものだけではない、難しい部分で戦っているんだぜ」という一味違うところ、そして「プロってすごいんだな」と見ている方に思っていただける麻雀を見せていかないといけない。プロとして長く活躍してきている人は、何かしらそういうところが絶対にありますから。あとは結果、麻雀プロは絶対にどこかで結果を残さないと生き残っていけない。
浅井 今後は連盟さんのタイトルを獲って、森山会長に「すごいじゃないか」と言わせたいですね。「麻雀日本シリーズ」、ぜひ呼んでください!
森山 呼べるようになったらね(笑)。浅井さんは最高位戦で頑張って、僕との今回のことがあって少しでも変わって、今まで以上にすごいと言われるようになってくれれば、僕もうれしいです。
進行:金本晃(麻雀最強戦実行委員長)
構成:東川亮
協力:黒木真生(日本プロ麻雀連盟)
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。