石橋はカンから仕掛けて後付けの形に構えると、を暗刻にして待ちの満貫テンパイを組んだ。
その後はテンパイを悟られないよう、自然な形でツモ切りを繰り返す。
3枚目となるも、一切の逡巡なく河に並べた。
そして12巡目、沢崎がをつかむ。
形としては全く不要。
カンチーという石橋の仕掛けをタンヤオと読めば、普通に切られる牌だ。
しかし、沢崎は手牌の上に乗せたを一瞥すると・・・
右端に置いていた、本来石橋に入っていたはずの切り。
さらに次巡はメンツからを抜き、完全に撤退した。
驚異のビタ止め。
この牌を打っていれば2着目石橋への満貫放銃となり、この試合の行方は全く分からなくなっていた。
冷静に見れば、はドラ跨ぎ、役牌の暗刻や手役があるなら、安全とは言えない牌だ。
また、石橋はカンチーの後、手出しは5打目ののみ。
テンパイかどうかは微妙で、自身は親番、アガリや連荘を見るなら真っすぐ切り飛ばしたくなるところだ。
これを止められる打ち手が、果たしてどれほどいるだろうか。
この局は、石橋の一人テンパイで流局。
開けられた手の待ちを見て、沢崎は何を思ったか。
視聴者である我々は、沢崎のすごさをまざまざと見せつけられている。
しかし卓上で打つ選手は、手をこまねいて見ているだけとはいかない。
特に、ラス目で最後の親番を迎えた寿人はなおさらだ。
ここを落とせば逆転トップはほぼ絶望、しかし一撃二撃と決めればまだ分からない。
南3局1本場。
寿人の手は配牌からマンズが多め、ツモも呼応し、形もそれなりに整っていく。
ならば、「ホンイツコンサルタント」の本領発揮だ。
ドラも2枚あり、染め手で決まれば破壊力は抜群。
ファン・サポーターの祈りが届いたか、寿人の元にマンズが集まる。
もう少し・・・
仕上がった!
このカン待ちをきっちりとツモアガり、6000は6100オールでまずは3着浮上。
逆転トップへ向け、一つ親番をつなぐ。
しかし、そこまでだった。
立ちはだかったのは、やはり沢崎。
寿人がテンパイを入れる前に1000-2000は1200-2200をツモアガり、寿人の逆転トップの可能性はここでほぼ潰えた。
寿人は開かれた沢崎の手牌をじっと見つめ、点棒を払う。
悔しさを押し殺したか、唇をぎっと強く結んだ。
南4局、萩原の親番。
萩原はここまで、アガリもなければ放銃もなく、ツモで点数を削られ続けてのラス目にいた。
もちろん、麻雀だからそういうこともある。
しかし、それが今であってはならない。
開かれた萩原の配牌はパッとしない。
縦にも横にも、どうにも中途半端な印象だ。
しかし、彼は萩原聖人。
これまでに、数々のミラクルを起こしてきた男。
それは、ミラクルを常に追ってきたからこそ成せたことだ。