仕事辞めますか?それともおしっこ漏らしますか?“百恵ちゃん、地獄の期間工時代編”【百恵ちゃんのクズコラム】VOL.27

仕事辞めますか?それとも

おしっこ漏らしますか?

“百恵ちゃん、

地獄の期間工時代編”

【百恵ちゃんのクズコラム】

VOL.27

ライン作業

工場での仕事は本当に辛かった。

激安自転車で痛い目に遭い、クソダサい車

をゲットした百恵ちゃんだったが免許取りたてホヤホヤでの通勤はとても辛かった。
昼勤の日は朝の6時には家を出ていたのだが、3000人の従業員がいる工場のため田舎であるにも関わらず通勤ラッシュがおこる。
4車線もある広い道路を多くの車が工場に向かうわけだが何度も車線を変更しながら他の車を追い抜かしていく車がほとんどで毎朝カーチェイスが行われていた。

百恵ちゃんはこのカーチェイスに巻き込まれない様しっかりと初心者マークを付け、一番左の車線をビクビクしながら走行していた。あまりの恐怖に初心者マークを車のサイドにも付けようかと本気で思っていた。

ちなみに入社してから一年が経つ頃には百恵ちゃんもこのカーチェイスに参加する様になっていてその日のライバルの車を勝手に決め、

「絶対コイツより早く着いてやる」

とナンバーを覚えて一人で戦っていた。が、いつも会社に着く頃には忘れていた。
会社と家を往復するだけの日々で21時には床についていた百恵ちゃんにとって朝のカーチェイスは唯一の楽しみだったのだ。

始業は7時20分からだったが百恵ちゃんが会社に着くのは6時半よりも前だった。
なぜ1時間も前に?と思うだろうが百恵ちゃんが働いていたのはバカみたいに大きな工場で、敷地面積はなんと東京ドーム約22個分もあるのだ。敷地の中には工場の他にコンビニや食堂、体育館やジム、温泉までついていた。小さな街みたいなものなのである。

毎朝その広大な敷地内を歩いて移動しなければならなかったのだ。もちろん工場内なので走るのは厳禁でどんな状況でも指差確認は行わなければならない。

会社に着くとゲートを抜けて更衣室に向かう。更衣室に行くだけでも5分以上はかかっていた様な気がする。だるすぎて長く感じていただけかもしれないがこの移動は本当に無駄に感じていた。従業員が使うことができる4つの駐車場の中で『どこからが一番近いのか選手権』を開いたくらいだ。

更衣室はいつも湿布の匂いが広がっていた。みんな体がバキバキだったのだ。百恵ちゃんもおばあちゃんに横流ししてもらった秘蔵の湿布を日々全身に貼り付けていた。

湿布を貼り、作業着に着替え、安全靴を履いて詰所と呼ばれる工場の中にあるプレハブに向かう。

時間になると全員で会社オリジナルの準備体操をし、仕事が始まる。

作業内容はラインに流れてくる大枠に部品をボルトで固定しマシンにぶち込み、また違うところでボルトや部品を付けてマシンにぶち込む、というのを小さなエリアのなかをグルグル回りながらこなしていく、というものだった。遅れてはいけないため、これを高速でこなすのだ。時間内に自分一人で回せるようになるまで1日に8時間以上費やすにも関わらず訓練は2週間から1ヶ月程掛かっていた。想像してみてほしい。それほどの長い時間の訓練が必要な程、高速で動くのだ。ほとんど息つく暇もないのである。

そして勤めてから半年程経った頃のある日の夜勤のことだった。作業中に軽くめまいがしたが、百恵ちゃんはそのめまいを乗り切ろうと思い、昔マイちゃんが

「めまいや立ちくらみが起きたときは頭を振ると治るよ」

と言っていたことを思い出して周りにバレないように頭を振りながら作業を続けた。すると目の前が真っ白になって耳がほとんど聞こえなくなってしまい、動けなくなってしまった。

その場でうずくまっていると直属の上司が駆けつけてくれた。
上司は顔面が真っ白になってる百恵ちゃんに驚き、その場でおぶって普段は出入りしてはいけないところから外へ運んでくれた。運んでもらっている途中、色々と話しかけてくれていたようだが百恵ちゃんはその時、全身に力が入らず本気でおしっこが漏れそうになっていて社会人としての生死の瀬戸際だったため、何も答えられなかった。
とにかく上司の背中におしっこをかけてしまわぬよう、わずかに残っている力を膀胱に全力で注いでいた。

詰所に戻り水を飲んで休んでいるとすぐに体調は戻ったが、百恵ちゃんはこんなにつらい仕事は向いていないし、おしっこを漏らす前にもう辞めよう、と心に決めた。

しかし、百恵ちゃんは辞めることができなかった。

当時結婚していた元旦那の隠し借金が発覚したのである。

 

次回は4月30日(木)午前0時更新予定‼︎

【田渕家登場人物紹介】

父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。

・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。

・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。

・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。

・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。

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