しかし、曲げなければ可能性は0のままだ。
奇跡に向かって、福本は最後のリーチを打った。
役なしテンパイを入れていた岩間は、とにかくテンパイを維持しておきたい。
そこでツモったのは生牌の發。
これはいったん留め、を切る。
渡邊にとって、何を置いてもほしかった牌だろう。
即座にチーしてテンパイ。
は山に2枚。
しかし福本のアガリ牌でもある。
安部か、渡邊か、それとも福本か。
勝敗は、すぐに決した。
3者の運命を分けるは、福本の元へ。
ツモ動作は、この日福本が見せた中で最も緩やかで、穏やかだった。
祈りを込めて、裏ドラをめくる。
「・・・イチサンニンロクです」
絞り出すような声だった。
勝敗は、決した。
4位に敗れた岩間は「いいところがあまりなかった」と、自身の麻雀を振り返った。
しかし負けたとはいえ、起死回生のハネ満ツモがなければ、あれほど熱いオーラスはなかったかもしれない。
敗れてなおこの勝負を楽しんでいたという中国最強位、彼も愛すべき本物の麻雀バカだ。
3位の福本は、最後は己の幸運を願ったが、実らなかった。
とは言え彼が見せた麻雀は、20年に及ぶ麻雀最強戦挑戦の歴史を証明するにふさわしいものだった。
あのツモから裏ドラをめくり終えるまでの時間は、福本の麻雀史において、最も残酷で美しい瞬間として残されるのかもしれない。
最もアマチュア最強位に近づいた、2位の渡邊。
オーラスでは現実的なアガリのルートがあっただけに、悔しさもひとしおだと思われる。
しかし願わくば、胸を張って、東北へと帰ってほしい。
彼が、仲間たちが誇る東北最強の男であることに違いはないのだから。
雀歴1年そこそこでアマチュア最強位となった安部。
実況、解説陣がそのキャリアを疑うほど、彼が見せた麻雀は洗練されていた。
この端正なルックスの若者が、ファイナルの舞台でどのような麻雀を見せるのか。
もしかしたら麻雀の歴史や伝統すら覆す、とんでもない大物が現れたのかもしれない。
安部颯斗さん、アマチュア最強位獲得、そして麻雀最強戦ファイナル進出、おめでとうございます!
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今年のアマチュア最強位の称号は、若干22歳の若者が手にした。
キャリアに関係なく頂点を掴むチャンスがあるということ、そして決勝に進んだ雀士たちが見せた麻雀は、世のアマチュア雀士たちに勇気やモチベーションを与えてくれたのではないだろうか。
挑戦する限り、可能性はある。
そして、夢や目標は口に出すことで実現する可能性が高まる。
そう、筆者は信じている。
この試合を見た、そして腕に自信のあるみなさんに、お尋ねします。
「来年のアマチュア最強位は、誰ですか?」
みなさん、来年の麻雀最強戦予選で、お会いしましょう。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。