勝つべくして勝つべき男が勝った 最速最強を１半荘で証明した多井隆晴の決意　麻雀最強戦2020「ファイナル」観戦記【決勝卓】

「自分の麻雀を打ち切る」と宣言した新井啓文は、座ってすぐに卓に乗り、戦えている印象だ。

満貫テンパイを入れた井上から8000のアガリ。
こうして新井のスタートダッシュで幕を開けた。

東２局　多井の反撃

アガって親を迎えた新井は、この手牌↓

画像では見えないが、直前に上家の多井からが打たれている。
新井はチーテンを取らなかったのだ。

この手も先ほどと同様に高打点への含みがある。↓

こう仕上がれば6000オールから8000オールまで望める。
東発の満貫アガリ程度では決まらない。この局で決める…意思を感じる新井のスルー。

ここから数巡ツモが空振り、ようやくテンパイしたのは12巡目だった。↓

スルーしたがそのまま待ちになった。
ここでも

①ヤミテン

②切り外し

③リーチ

…と選択肢がいろいろあるが、巡目が深いと見て新井はリーチに踏み切った。
親で最低7700からなので十分高い。1500～2900のチーテンを取らなかった見返りは十分にある。

しかしこのリーチに悠然と立ち向かったのが…

事前予想でも圧倒的な一番人気、最速最強の多井隆晴である。

役牌を2つポンしているので、ホンイツ役牌✕２の満貫、待ち。

無筋のを切り飛ばし…

もノータイムで勝負！

「多井さん手が震えていますね」
解説の魚谷がつぶやく。

満貫のリャンメンだから押して当たり前に見えるかもしれない。
しかしここで新井に親満でもアガられたら独走態勢に入ってしまう。
さらに巡目が深くなってきた。押し切るには相応の覚悟がいる。

勝ちたいのは誰もが同じだが、多井の勝ちたい気持ちは誰より強いはずだ。
前日はほとんど寝ずに、昨日行われた１stステージを２回観て同卓者を研究したという。

多井は13年前、所属していた連盟を辞めてRMUを立ち上げた。
それが身勝手な行動と判断されたのか最強戦に出ることはできなかったのだ。

しかし地道な活動が実を結び、数年後に出場が認められる。

「ようやく麻雀業界に認められた気がして感無量です」
当時の多井はそう語る。
2016・2017とファイナリストに名を連ねるものの、惜しくも敗退。
とくに2016はオーラスに劇的なまくられ方を許し、半分手中に収めていた最強位の座を逃してしまった。

その時の画像がこちら。

失意に顔を伏せている多井の姿が映されている。

「育ててくれた最強戦への気持ち」
「数年越しのリベンジ」
あらゆる思いが多井の手を震わせたのか。
それらを背負ってを押した先には…

8000のアガリとなって実を結んだ。

東３局・決勝卓の魔物に飲まれる井上・本田

親を迎えた井上はこのをツモ切り。↓

かを切る手牌だ。受け入れ枚数が違う。
井上も普段ならそう打っていたはずで、親番ではなおさらだ。

次の巡目に…