繊細な打ち筋と勝負所の大胆さ! 松ヶ瀬のパーフェクトゲームを見よ! 麻雀最強戦2021「男子プロ鋭気集中」観戦記【A卓】担当記者:増田隆一

繊細な打ち筋と勝負所の大胆さ!

松ヶ瀬のパーフェクトゲームを見よ!

【A卓】担当記者:増田隆一 2021年10月3日

あれはまだ、世の中に麻雀プロなる者が存在することすら知らなかった中学3年の頃。部活を引退し、高校への推薦が決まっていたのでやることなんてなにもない。毎日のように溜まり場の友人宅に遊びに行っていた。そんなある日、いつものように下らない話をしていたら、ふと部屋の片隅に落ちている近代麻雀に気が付いた。

「これなに? 面白いの?」

「麻雀分かるでしょ? もう読み終わったから持って帰っていいよ」

たいして興味があったわけではない。ただ、こちらは暇だけはいくらでもある。時間潰し程度にはなるだろうと持って帰った。

家に帰り、中を開くと思いの外面白くて最後まで読み耽ってしまったのだが、その中で「最強戦」なる記事を見つけた。当時はボンヤリと、麻雀にプロがあって、タイトル戦なんてものがあるんだ程度にしか考えていなかった。しかし、1つだけ痛烈に記憶に残っていることがある。

“最強戦ってことは、これに優勝したら日本一なんだな”

これが私と「最強戦」の出会いである。

時は経ち19歳の時にプロデビュー。すぐに最強戦にも選手として出場するようになった。

数年間は地方予選を担当させてもらい、毎週のように各地方を飛び回ったこともある。当時、駆け出しの若手に地方ゲストの話なんてあるはずもなく、色々な地方を周り、色々な方と交流できたのは今でも私の財産だし、感謝しかない。

それだけに、特別な思い入れのあるタイトル戦。現場の臨場感を少しでも皆さんに伝えることが出来ればと思う。

というわけで、今回の「男子プロ鋭気集中」A卓の観戦記は私、日本プロ麻雀連盟増田隆一が担当します。

それでは選手を紹介しよう。

前原雄大(日本プロ麻雀連盟)
獲得タイトル多数、言わずと知れた日本プロ麻雀連盟のレジェンドである。後ろから見ていると愚形リーチや遠い仕掛けだらけなのだが、同卓すると非常に迫力がある。そしてどうせガラクタでしょ? とぶつけに行くと、こちらがテンパイするかしないかの絶妙なタイミングでツモあがる。全盛期は自分のツモ筋にいる牌が分かっているかのような強さだった。

最強戦ルール、特に2着までに入ればよい今回はリーチが特に強い。捌いても決定打にならないが、放銃は致命傷になりかねないので勝負に行きにくいのだ。今回、他の3人は前原のリーチ攻勢に対して、毎回押すのか引くのかの判断を強いられると予想する。

井出康平(日本プロ麻雀連盟)
30を過ぎたあたりから頭角を現し始め、前期のプロリーグではアッサリと私のことを追い越してA2に昇級したノってる漢である。漢気もあるが茶目っ気もある可愛い後輩だ。
先日、瀬戸熊、滝沢らと井出の話題になったが、その時に山田浩之が、「井出はA2でも通用するんじゃない? 昇級しても驚かないし、強いよ」と言っていた。山田浩之からの評価通り、持ってる力を如何なく発揮して欲しい。

松ヶ瀬隆弥(RMU)
RMUでトップリーグに在籍し、E X風林火山のオーディションでも優勝。今期からMリーグの舞台に登る。最強戦なので当然なのだが、井出と同様にノッてる選手である。他団体なのでそれほど見たことはないが、見た目とは裏腹の丁寧な麻雀を打つ。ちなみに一度飲みの場で会ったことがあるが、やはり見た目とは裏腹の”いい奴”だった。今回は唯一のRMU所属選手、団体を背負って戦って欲しい。

山田独歩(最高位戦日本プロ麻雀協会)
最高位戦からの参戦。ほとんどの方はご存知だろうが、オンライン麻雀「天鳳」で最高峰である天鳳位まで上り詰め、鳴り物入りでプロ入りした。
放送対局などで何度か見たが、悪口ではなく「雀荘の強いおっさん」だった。メリハリもあるし、粘り腰もある。
今回の最強戦ルールは一発、裏ドラ、オカありなのでまさに向いているルールなのではないか?

起家より松ヶ瀬→独歩→前原→井出の並び。余談だが最強戦は起家から場所が固定されていて、開始前に掴み取り(東南西北の牌を伏せて引く)で場所と親が決まる。人によって考え方はあるが、北を引きたいと思う人が多いのではないか? 放送対局では負けを決める上がりは基本的にはない。オーラス余裕があればノーテン宣言で勝ち。マイナスしていても、相手にも制限があるケースが多いので連荘の確率は格段に高くなるからだ。

さてそれでは試合を見て行こう。開局は独特の緊張感が漂い、手つきも心なしかぎこちなく見える。この4人であれば当然放送対局など慣れっこなのだが、最強戦のスタジオは卓の周りが広くまるで孤島のような空間であり、慣れない暖色系のスポットライトで囲まれており独特なのだ。普段は放送対局でも雀荘でも蛍光灯で打つのに慣れている選手は違和感を感じるであろう。

[東1局]
そんな中、まずは挨拶がわりの親リーチが松ヶ瀬から入る。

東1局リーチ

序盤の字牌の切り出しや残す牌の丁寧さが光る一局だった。これに対して各者もそれなりに手が進んでおり、ある程度は行く構え。13巡目、井出の手がこうなる。

現物はなし。強いて言えば親リーチが【南】を残してのテンパイなので、ドラ両嵌【4マン】【6マン】【8マン】を嫌う【8マン】先打ちはないと見て中筋の【5マン】だろうか?
ただ、ブンと無筋の【1ピン】をノータイムで勝負している独歩の捨て牌に手出しの【4マン】があり【5マン】裏スジ

1巡のために中抜きをしてまで脇に放銃するのもくだらないと、井出の選択は【1マン】【5マン】を抜かないとなると、【1マン】【9マン】の選択になりそうだが、松ヶ瀬の【8マン】は手出し、ましてや宣言牌の【南】はただ安牌として残したと見ると実質上の最終手出しとも言える。

その点、【2マン】はツモ切り、そして【1マン】はワンチャンスでもあり致し方ない放銃と言えよう。抜かれた表情からは読み取ることが出来なかったが、こういう舞台、道中での反省が1番良くないのは井出も分かっている。気を取り直して次局に進めるかがここからのキーポイントと言えよう。
タイトル戦の決勝などでもそうだが、緊張をほぐして勝負に入り込む意味でもまずひとアガりが欲しい。そういった意味で対する松ヶ瀬は裏ドラは乗らずとも開局からのアガりでかなり気が楽になった筈だ。

[東1局1本場]
配牌ドラアンコの井出が果敢にトイトイ仕掛け。

序盤にノータイムでポンの声が出るあたり、井出に前局のダメージはなさそうだ。しかし親の松ヶ瀬はすでにピンフのテンパイ。

「井出くん、人の親番で何をしてるんだい?」と言いたげなツモ切りリーチをアッサリとツモ。裏ドラも乗せて2600は2700オールとなった。

[東1局2本場]
放銃→不発と苦しい井出だが、麻雀の女神は見捨てていない。どうということもない配牌がグングン伸びてオタ風だが【南】がカンツ、ドラが対子になり勝負手リーチに打って出た。

対して前原もドラ対子に【發】も対子の勝負手。

親の松ヶ瀬も両面2つのピンフのイーシャンテンで、これが決まれば通過がかなり濃厚になるので決めたい。

タンヤオのイーシャンテンとは言え、対子3つと受けも悪く、ドラもない独歩は相手の先制には受けに回ると見ていたが、井出のアンカンで状況が一変。タンヤオドラ2の勝負手となった。

真っ先に根を上げたのは松ヶ瀬。確定とまでは言えないまでも、2人勝ち上がりのルールならば、かなりのアドバンテージを持っており弱腰というよりは感情に流されない冷静な判断。敢えて天上から地上に降り立ち4人で殴り合いをすることなんてない。地上の3人が殴り合うのを高みの見物と決め込んだ。

ここからは3者の意地の張り合い。

  • この記事が気に入ったら
    フォローをお願いいたします!
    最新の麻雀・Mリーグ情報をお届けします!

  • \近代麻雀新刊&おすすめ/