不死鳥か、それとも海賊か　ボーダーを巡る紙一重の激闘【Mリーグ2021観戦記4／7】担当記者：東川亮

小林は前巡に通したをもう１枚打ち、手を崩した。

一方で、松本はネックだったカンが埋まり、手が進む。しかし、真っすぐ行くなら打ち出されるは、近藤のロン牌。

会場は、どこまでも静かだ。しかし、日本のどこかで、あるいは海外で、この試合を見ている人たちは願う。

「打つな！」「打ってくれ！」

「愚形に当たりにくく、３巡しのげる牌」
松本は試合後、切りをそのように語った。このまま進んでも、もう１枚何かを勝負しなければならない。そこに見合う手ではなかったことが、を打たせる要因になった。これはもしかしたら後に、ABEMASを救う選択になるかもしれない。

アガリ牌は抑え込まれた。しかしそれでも、近藤はツモる。

裏ドラが１枚、4000は4100オール。

不死鳥を再び羽ばたかせる、起死回生の一撃。この男の左腕には、仲間の、ファンの思いが宿っている。

南３局２本場、小林が早速を仕掛ける。赤が１枚あって現状2000点、もしかしたらもう少し高くなるかもしれない。小林の、いつものムーブだ。

小林は、ロボとかサイボーグとか、非人間的というかメカニカルなものによくなぞらえられる。しかしそれは、どんな状況でも自分のやるべきことをたんたんと行う、麻雀の打ち方に関してのことだ。内面は仲間を思いファンを大切にする、優しく責任感の強い男である。

テンパイ、が暗刻で2600。単騎に受けて、後の変化を見る。

内川のリーチを受けるが、まずはをプッシュ。の暗刻落としなら安全そうだが、アガれる形はキープ。

ドラを引いて打点がアップし、も押す。

そして引きで待ちへと柔軟に変化。のままではアガリ牌が山になかったが、は３山。これでアガリの可能性もグッと高まった。

だが、このままでは終わらない。近藤が待ちでテンパイ。内川の現物であり、ならタンヤオピンフ三色ドラ、試合を決定付ける12000が決まる。でも5800はダメ押しに近い。

は場に３枚切れ、残る１枚は松本が持っていた。手詰まれば打たれてもおかしくない。

次巡、近藤がを引いて止まる。捨て牌が3段目に入ろうかというタイミングでの生牌で、気持ち悪いことこの上ない。

恐怖はあったはずだ。しかし、逃げてばかりで勝利は得られない。近藤はをツモ切った。声はかからない。

決着はその直後に訪れた。内川がを掴み、小林に3900は4500を放銃。供託を含めて、小林が近藤を再逆転した。

その差、わずか300点。小林が逃げ切れば、パイレーツは最終日に現実的な条件を残せる。逆に近藤がもう一度小林をかわせれば、フェニックスはパイレーツに相当厳しい条件を突きつけられる。お互いに、どんなアガリだっていい。

小林は場風のがトイツ。

近藤は三元牌のがトイツ。ただしはドラであり、打たれにくい。役牌以外のまとまりを見ても、小林がやや有利だ。

もも、残る2枚は山にあった。場に放たれた最初の1枚は、。松本がツモ切ったそれを、小林が鳴いてテンパイ。

決着は早かった。のみ、麻雀において最も小さな1000点のアガリ。しかしその1000点には、あまりに大きな意味がある。

重大なミッションをやり遂げた小林は、少しだけ表情を変え、戦いの場を後にした。やはり彼は機械などではない、熱い魂を内に宿す、パイレーツの船長なのだ。最終日、おそらくもう一度、この男の出番が来る。

およそ24時間後、首位のサクラナイツを除けば、どのチームがファイナルに進んでいるかは全く分からない。ただ一つ言えるのは、セミファイナル最終日の戦いは、絶対に見逃せない、ということだ。

だってこの状況だぜ？
絶対に面白い試合になるに決まっている。