空振り続けたリーチを、渋川はここでもかけた。それはもちろん、
勝利を、
つかみ取りに行くためだ!
呪縛を振り払うかのような一発ツモ、ドラ3裏1での3000-6000は、この日の通算29局目での、初アガリだった。
戦え渋川、勝利のために、仲間やファンのために
渋川の前に立ちはだかったのは、仲林圭。渋川と同じ日本プロ麻雀協会に所属する、長年のライバル。
東4局、仲林が丸山とのリーチ対決を制し、12000を出アガリ。丸山のリーチ棒も加え、渋川を300点かわしてトップに立った。
だが、渋川の牌勢も衰えてはいない。南2局、赤2枚の手を門前でまとめあげ、待ちのリーチをかける。
ツモればかなり勝利に近づける。ツモる渋川は、目に見えぬ何かに祈りを捧げているようにも見えた。
アガれたのは、祈ったからではない。アガリ牌がそこにあったから。そして、アガれる手を作ったから。
ツモでタンヤオはつかなかったが、打点は裏ドラでフォロー。リーチツモピンフ赤赤裏1、6翻でハネ満、3000-6000。ついに幸運も、渋川に味方し始める。
南3局。
ここをクリアできれば、渋川のMリーグ初トップはほぼ決まりだ。しかし、そうはさせじと親番・仲林がポンから動く。ドラドラ赤で打点も十分、この手が決まれば一気にトップも狙える。
スムーズにテンパイ、カン待ち。
直後、渋川も追いついた。ただ、ペン待ちは役なし。を引けばドラこそ出ていくが三色で役ありになるし、にくっつけての好形変化も狙えなくはない。
だが、渋川は即リーチと打って出た。すでに局は中盤、を鳴いた仲林はとターツを払い、まで切っていて、かなり手は進んでいそう。そこで打たれるを捉えられないのは、自身の隙となる。渋川は、自らが戦う道を選んだ。
仲林も引きで選択。を打てれば待ちが現状のカンからへと変わる。だが、は2スジにかかる上にドラ、打てば自身の打点が半減するだけでなく、放銃時の被害も大きくなる。
それらを理解してなお、仲林はドラを切った。たとえドラで満貫、ハネ満を放銃したとしてもまだ2番手、ならばとより連荘率を高める選択をした。実際、は丸山が暗刻にしていて残り1枚、になると、が2枚増えることになる。
渋川と仲林、同じ団体から同じときにMリーグ入りを決め、先日まで自団体の頂点を目指して競い合っていた二人。初トップは仲林が先だった。これ以上、渋川は負けるわけにはいかない。
何よりも、信頼して快く戦いへと送り出してくれた仲間、そして応援してくれるファンのために。
やってやれ、渋!
渋ぅぅぅぅぅ―!!
リーチツモドラ裏、2000-4000は仲林の倍満ツモ条件を消す、文字通りの決定打となった。
ひ
渋
強
時間はとっくに24時を過ぎている。さあ渋、こうなったら10本場と言わず、朝まで親番やろうぜ。
ダメでした。
自身8戦目での念願の初トップ。大きな勝因となった愚形リーチ2発について「応援してくださる皆様がツモらせてくれた」と振り返った。
勝利のポーズは、まだまだぎこちなかった。でも、きっとこれからなじんで来るはずだ。
地獄と天国を見た1日。
おめでとう、渋川難波。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。